悪魔がウチにおりまして・651
ウチには悪魔がいる。
地蔵を彫っている悪魔が。
「悪魔、それ何彫ってるの?」
「地蔵です」
青いビニールシートの上に石を置いてコンコンしている悪魔。
汚さない配慮は成長の証、だけれども。
「地蔵って何のためにあるか知ってる?」
「無病息災ですよね、知らないんですか?」
知っているなら皆まで言うまいよ。
確かコイツ、ニンゲンを堕落させるために来ているとかなんとか。
「ニンゲン、岩を刻むのは心が洗われますね」
清々しい顔をしている堕落先導者、私はどんな顔で反応したらいいのよ。
「アンタが作って良いものなわけ?地蔵って」
「ほえ?だって偶像ですよ?」
そうだけど。そうだけど!
「おや、ニンゲンさん。どうしました?悪魔族が仏教の偶像を彫ってバチが当たらないか心配しているような顔をして」
突如現れた羊。
あまりにも具体的、且つメタい。
「そこまでわかっているなら、私の気持ちもわかるでしょ」
「さぁ?ミミ君、わかります?」
「羊さん、創作思考を妨げないでください」
思わず悪魔の頭にスリッパを投げていた。
さすがに無礼すぎるでしょ。
「に、ニンゲンさん……だ、ダメですよ。私には妻が」
うん、羊にもスリッパ乗せようか。
スリッパ・ヘッズは石を見つめながら、あーだこーだ言っている。
「どうせ彫るなら歴史に残るような立派な彫像を彫りたいです!」
無茶を言っている!
「そうしたら文化庁のツテにあたってみますか」
なんでそんなツテが!?
「羊さん、衣川さんは150年前の職員ですよ?」
たぶん寿命迎えてる!
「それよりも腕は何本にすればいいですか?6本?」
悪魔だからね!
「地蔵はたぶん2本腕ですね。ミミ君、伝統は守らないと」
羊が真面目なこと言ってる!
「ニンゲン、さっきから顔芸が面白いことになってますよ?」
やかましいわ、最近暑さで精神安定しないのよ。
うぱが白いツボを渡してくる。
中身何よ、私あなたの持ってる物触れないんだから。
「……う、うぱちゃん?それは、伝説の……!」
悪魔が目を丸くしてうぱのツボを見つめている。
「でんせつ」
「ニンゲン!知らないのですか!伝説のおさとうの噂を!」
知らないよ、砂糖でしょうに。
「それは、得たものに甘味を与える素晴らしき秘宝……」
「悪魔、それ長い?」
「短めにします」
ウチには悪魔がいる。
断ったら泣きながら槌を振るっている悪魔が。




