悪魔がウチにおりまして・650
ウチには牛が居る。
安楽椅子で揺れている牛が。
「いつ持ち込んだし」
「細かいことは気にしないでください」
ゆらゆらと気持ちよさそうに揺れて、雑誌を読んでいる。
「帰る時持って帰りなさいね」
「そういえばどうでも良いことなんですが」
牛はパサリと雑誌を脇に置く。
「ミミさんが壊れました」
「いつもじゃない?」
返事に対して牛は眉間にシワを寄せる。
「よくその精神で同居してますね」
「居候だからね」
「まぁ良いんですけど。ミミさんをご覧ください」
牛が椅子から降りると奥にいた悪魔がクイッとメガネをあげる。
「東欧為替市場はマイナス0.16%、今すぐに影響は出ませんが明日には東京為替に影響が……」
「牛!悪魔が壊れている!」
「だからそう言ってるじゃないですかー」
牛が再び安楽椅子に……乗るな!説明しろ!
「宝田さん、大きな声を出して騒々しいですよ。ご近所迷惑です」
悪魔がまともなこと言った!なんなら名字で呼んだ!
「悪魔、熱でもあるの?」
「36.7℃です。毎朝の検温は欠かしてません。それに宝田さん。私はミミという名前があります。きちんと名前で呼ぶのは健全なコミュニケーションかと」
ムカつく!コイツに言われるととってもムカつく!
「ほら、宝田さん謝ってー」
牛、あとでしばく!
「で?壊れた理由はわかってるの?」
ひとしきり上がったテンションがいい感じに下がってきた。
「私が壊れている?宝田さん、ナンセンスですよ」
「最近流行ってるんですよー、あっちに生えてるキノコ食べちゃうとこんな感じになるんですー」
ねぇ、放っておいていいかなぁ!?
「ミミさん、いつキノコを拾い食いしたんです?」
「辰田さん、拾い食いなどと行儀の悪いことをすると思いますか?ただ、朝食でキノコのリゾットを作ったことを覚えています」
朝からそんな怪しいもん食べてるんじゃないよ!
「てことはぁ……ていっ!」
牛、悪魔のミゾオチにこぶしを叩き込む。
そのまま吹き飛んでいく悪魔。何をしてるんだ、偶蹄類。
壁まで吹き飛んだ悪魔はそのままごふっと何かを吐き出した。
キノコだ、なんなら切り分けてすらいない。
「……あれ?ニンゲン、牛さん。どうしたんです?」
「ミミさん、キノコ食べて壊れてたんですよ」
「……えー?そんなことなるわけないじゃないですかぁ」
「なってたのよ!」
思わず悪魔の頭にカカトを振り下ろしてしまった。
……今日はどっと疲れたよ。




