悪魔がウチにおりまして・644
ウチにはうぱがいる。
クローゼットをかりかりしているうぱが。
「うぱ、どうしたのー?」
この子がこんなに自己主張するなんて珍しい。
視界の端には居るんだけれどふわふわ浮いてるだけだからね。
「ふむ。うぱちゃん里帰りしたいみたいですー」
悪魔はうぱの言葉わかるから通訳してくれてるけど。
「里帰り……あの白い場所?」
1回迎えに行ったことあった気がする。
「うぱちゃんがお父さんのこと恋しいって言ってます」
うぱ、恥ずかしそうに悪魔をはたいている。
どうやら変な翻訳はしていないらしい。
「うぱが帰りたいなら良いけど」
「なんかボクらにもついてきて欲しいみたいですー」
頷くうぱ。私たちも?
「なんかー、おもてなししたいそうでー」
悪魔も首を傾げながら左右に揺れている。
「悪魔と私だけ?」
全員ならいざ知らず、ウチらだけなのは気になる。
「……人数制限らしいです」
まぁ、クモたちは全員呼べないわよね。
「というわけで、ニンゲン。今から行けます?」
悲しいかな、予定はないのよね。
「せっかくうぱが誘ってくれたからいくかー」
「ですねー。うぱちゃん、持っていくものとかありますか?」
うぱは手を広げてバンザイしている。
「おやー、来てくれないと思ってこっちから来てたのに」
クローゼットからにゅっとうぱパパが顔を出す。
「うぱちゃんのお父さんー、お久しぶりですー」
悪魔はうぱパパにバンザイで応える。
「おー、悪魔くん。キミの送ってくれたお中元、美味しかったよー」
どうやって贈ったのよ。
「ちなみにサバ缶です。あっちにはない、貴重品です」
こっちの技術、大人気だなー。
「うんうん。この子も元気そうだね」
うぱを撫でている。恥ずかしそうに俯いているうぱ。
「本来この子はこっちでこんなに長居しちゃダメなんだけどね」
そうなの?
「影響出過ぎちゃうからね。こう見えて超常現象そのものだから……うん」
悪魔と私を見て押し黙る。コイツはさておき私はおかしいでしょ。
「ニンゲンー、ニンゲンはニンゲンじゃないのですー」
よーし、アンタの晩ご飯はサバ缶の煮汁だけだからな。
「さて、そろそろ帰るね」
「もうですか?」
パパさんは微笑みを向ける。
「こう見えて忙しいから。そうだ」
ふぅーっと手のひらに息を吹きかけた。
「ウチの子と仲良くしてくれてありがとう。少しばかり、幸運を」
パパさんはそのまま去って行った。
なんか、空気を変えてくれたパパさんが。




