悪魔がウチにおりまして・641
ウチには犬が居ぬ。
失敬、犬が居る。頭がふたつある犬が。
「おるちゃーん、ご飯ですー」
『ばふー』
悪魔の呼びかけに犬が部屋から飛び出してきた。
「今日はマグボウの照り焼きですー」
『ばふ?』
この前捌いたナゾ魚の照り焼きを前にふたつの首が逆方向に傾く。
ぶつからないように賢いねー。
「おるちゃん、食べ終わったですかー」
『ばふー』
「お手ー」
悪魔、押し潰される。
「おかわり」
犬、逆の手で潰す。
「おすわりー」
悪魔、犬に下敷きとされる。
「この子、手加減はできないのね」
「いえ、ちゃんと手加減してます……足加減?」
モグ、そこは手加減でいいよ。
「もし足加減していないならこの床に穴が開いてます」
仔犬とはいえ、伝説の生き物だからなぁ。
「しかし、ミノさん以外に懐くのも珍しいです」
「犬って誰にでも懐くものじゃないの?」
だって、犬だし。
「その理屈で言うと、ニンゲンは霊長と言われてますが皆、賢いということになりますよ」
くぅ、応えづらい返しをするな!
「ニンゲンは皆、賢いですか?」
詰めてくるな、このモグラ!
「ニンゲンー、おるちゃん重いですー」
悪魔、まだ犬の尻の下に潰されてる!?
「ほら、犬ー。退きなさいー?」
『いやだー』
喋れんのか、犬!
「ミミちゃんと遊んでるのー」「スキンシップなのー」
それぞれの頭が答えて尻尾を振っている。
「おるちゃん、尻尾くすぐったいですー」
意外と平気そうだな、この悪魔。
「あとはさっきのご飯美味しくなかったのー」「まずかったのー」
それはすまんて!私が焼いたよ、さっきの魚!
「ニンゲン反省するですー」
「犬、体重掛けなさい」
「ぐえー」
悪魔の足がジタバタともがいている。
「良い子ねー、しばらく居るなら自分でご飯の準備手伝いなさい」
「できないのー」「狩りの獲物居ないのー」
そうね、コイツらの食事ってそうだよね!
ウチには犬が居る。
「いつまで居るの?」
「わからないのー」「パパが帰ってくるまでなのー」
ミノのことパパって呼んでんの!?




