悪魔がウチにおりまして・639
ウチには悪魔がいる。
大きな刀を持っている悪魔が。
「何捌いてるの?」
「作者ですー」
やめなさい、前回からの悪ノリは!
リビングで切っているモノはどう見ても魚、サイズ的にマグロかな?
「ボクが漁ってきました」
そこにはねじり鉢巻をしたモグラ。
「アンタ、何でもできるのね」
「なんでもはできません。できることだけできるのです」
こういう精神、生きる上で大切かも知れない。
「ニンゲン、手伝うですー。今日の晩ご飯にしますー」
悪魔が魚に刃を入れつつ手招き。
大きな魚だから仕方ないと、悪魔が指さした頭側に回ると……。
「マグロじゃないの?」
そこに見えた頭は魚の物ではなく、耳が生えていた。
耳の形はどう見てもゾウの物。
「コレはマグボウ……。マンボウの一種です」
せめてゾウを絡めなさい。
「美味しいの、コレ」
「美味しくないですよ、こっちでは」
モグラ、なんで持ってきたの!?
「ニンゲン、特にニホンジンは恐ろしいのですー」
悪魔がいきなりディスって来たんだけど?
「なんですか、あの醤油って。あれは卑怯ですー」
悪魔の言葉にモグラが頷いている。
「こっちの調味料、どれもこれも優秀です。お魚と醤油の組み合わせは卑怯です。なんですか、あの黒いのは」
誉めてるのか貶してるのかわからん。
「このマグボウ、脂が多すぎてむしろ燃料に使われているんですが。丁寧に脂を抜いて、醤油で煮るととても美味しい」
モグラは話の途中からよだれを垂らし始める。
「脂抜いちゃうと、味が無かったの埋めてくれるんですよー」
悪魔が刀を引きながら補足を入れてくる。
「悪魔が言うなら信用するか」
コイツの食い意地は、信じるに足るものがある。
「ただ、この量どうするの?」
悪魔と同じくらいの大きさの魚、食べ切れる自信など……。
「ミミちゃんは捌いてくれるから1ブロックです。あとはみんなにお裾分けですね」
モグラ、やっばり悪魔の扱い方心得てるなぁ。
「ニンゲン、1ブロックでも充分です。なんだったら重いです、脂抜いてもギトギトです」
その擬音の物を食べないとダメなの?
「元々燃料ですから。まぁ、ミミちゃんに作って貰ってください」
モグラは悪魔に渡す部位を見定めている。
「ふむ、ここからここまでなら?」
「充分ですー!」
ウチではナゾ魚が食卓に並ぶ。
それは、カジキと同じ味がした。




