悪魔がウチにおりまして・632
ウチには悪魔がいる。
ご飯を食べながら映画を見ている悪魔が。
『いやー!ジョナサン、ジョナサーン!』
悪魔が見ているのはどうやらパニックゾンビ映画のようで。
よりにもよって、肉を食べているときに見ることは無いでしょう。
「ミミ殿、音量を下げるか、イヤホンでお願いちます」
狐は眉間にシワを寄せてクレームを付ける。
まぁ、今回の文句は間違いなく狐に理がある。
「ごんちゃん、なぜですか!映画は大音量で見るものです!」
コヤツ、己が罪を自覚していないだと!?
「悪魔、ならせめて見るもの選びなさい。スプラッタしてるじゃない」
ちょうど血がぶっしゃーしてジョナサンが死んだ。
良いやつだったよ、知らんけど。
「お肉を食べてるときくらい、心穏やかに食べたいのです」
別に肉以外でも穏やかに食べよ?
「おんやぁ?この程度で心乱れるというのですかぁ?」
悪魔が空気を読まずに狐を煽る。
あー絶対また壁にめり込むハメに……。
と、思っていたら狐がじんわりと目から涙をこぼし始める。
「わかってるもん……。修行が足りないって知ってるもん……」
あー、狐泣かしちゃったー。
悪魔もまさか泣くなんて思ってなかったのか、慌てている。
「ご、ごんちゃん。ボクが悪かったです、いけませんよね、ご飯は美味しく食べないと」
たぶん謝るところそこじゃないけど、そのツッコミは野暮だろう。
「某も頑張ってるもん、でも尻尾増やすの簡単じゃないんだもん……」
本格的にえぐえぐし始めた狐にクモがティッシュを渡す。
うぱ、悪魔をジト目で横目で薄い目で、今まで見せたことの無いような視線を送っている。
「ご、ごんちゃんの年齢で3本はすごいのですー!」
「そうだそうだー」
本当にすごいのかわからないけど、とりあえず狐の機嫌を取らないと。
「試験、受けられないのー……まだ経験が足らないってー」
少し泣き止んだ狐はクモから貰ったティッシュで鼻をかむ。
「狐の尻尾って試験制なの?」
勝手に増えるんだと思ってた。
「そうなのー……霊力増えても尻尾増やすには許しがないとー……」
うん、普段とキャラ違って幼児になってるね。
「ほら、悪魔。詫び」
「ごんちゃん、試験までどれくらいですか?」
「50年……」
遠いな!?
「それならすぐなのですー。ボクが出世するまで200年かかったですー。同期はみんなはもう独立して……あれ、ボクもしかして落ちこぼれ……?」
そう言うと悪魔は徐々に俯いていくのでした。
ウチには悪魔がいる。
気付かなくて良いことに気付いてしまった悪魔が。




