悪魔がウチにおりまして・625
ウチには悪魔がいる。
なんか雅になっている悪魔が。
「くれないにー染まる我が身を慈しみー癒しをくれる、者は無きなりー」
若干怒られろ?
「悪魔、短歌?」
あえて内容には突っ込まずやってることのみ尋ねる。
和服を着て、短冊に筆で文字をしたためる様子はまさに雅。
内容が著作権アレってるけどまぁセーフでしょう。
「そうなのですー。ごんちゃんに教わって短い言葉で気持ちを書くのがお上品だって言われまして」
その結果世界的ロックの歌詞をもじったわけですね。
「パクリはダメよ?」
「インスパイヤです」
マネした自覚はあるのね。
「難しいのです。こんな短い文字で言葉を伝えるなんてー」
短歌とか俳句とか、確かに難しいわよね。
「ニンゲン殿、あなたも日本人なら短歌のひとつやふたつ、読めて当然では無いですか?」
狐が変な圧をかけてくる。
「その理屈で言うなら狐なら油揚げ作れて当たり前って言うけど?」
「それは狐差別です。別にあぶらげ嫌いな子もいます」
心なしか耳を垂らしているので効いたっぽい。
「クモちゃんも短歌読むですー?」
情報が渋滞してない?
確かにクモが筆を持って短冊掲げてる姿は可愛いものがあるけれど。
さらさらと筆を操り、文字を書いていく。
「クモちゃん書けたですかぁ、どれどれ……」
悪魔と共にクモの書いた短冊を覗き込む。
『蝉時雨、落ちる頃合い日も落ちて。涼風運びてふうり鳴る』
私と悪魔、絶句。
「ほう、クモちゃんの短歌、とても良いですね。情景が思い浮かびます」
狐が短冊を捧げて目を細める。
クモ、照れて頭を掻いている。
「な、なかなかじゃないですか???」
悪魔が露骨に動揺しているのがわかる。
「ニンゲン殿も感想をお伝えくださいな」
なんか改まっての感想って恥ずかしいなぁ。
「クモ、すごいね。とってもいい」
ぴょんぴょん跳ねるクモ、嬉しそうねぇ。
「ちかしクモ殿にこのような才があるとは。何を考えて書いたのですか?」
クモはボールペンで紙に書いている。
「せみたべたい」
……みんな、無言。
「……クモ殿、結果がすばらちいのでよいのです、よいのですが……」
こんな狐の苦悶の表情は、これ以降見れないだろうなぁ。




