悪魔がウチにおりまして・623
ウチには悪魔がいる。
七輪を持ち出した悪魔が。
この気温である。炭火である。
要するにクソ暑いのである。
「悪魔!気温を考えなさい!焼き鳥ならガスで……」
「ニンゲン、良いのですか?」
七輪をつつく手を止めて、悪魔は私に顔を近づけてくる。
「ぽんちゃんの作ったタレがあります。ぼんじりがあります。モモもムネも、つくねもあります」
……く、卑怯な!
「ビールを冷蔵庫に入れたのは4時間前。飲み頃に冷えてますね?」
な、なんだって!
「この炭火で焼いたお肉を食べながら冷えたビールを流し込む……最高ですね?」
羊がうちわで火を焚いている。
「くぅ、ころせ!」
「良いんです、ニンゲン。この気温で焼き鳥などしようとしたボクが悪かったです。ごんちゃんが用意してくれたおにぎりと味噌も、無駄になってしまいますね」
炭火で味噌焼きおにぎりだと!?
「……たべたーい」
「んー?弱者のたわ言が聞こえます。謝罪は無いのですか、謝罪はー」
「そろそろいつものテンションでいい?」
「おけです。というわけで焼くのは羊さんに任せてボクらは枝豆の準備ですー」
居酒屋・悪魔亭の開店でーす。
「焼いてるの私なのですが!?」
「食べるのは私です」
牛が取り皿を持って箸をカチカチしている。
うん、見慣れた光景だ。
「なんで牛さんは手伝わず食べ専なんですか!」
「牛さん!牛タンありがとうございます!こんなに分厚いタン見たの初めてですー」
牛の共食い供託、見慣れた光景です。
「お金はこう使うのです、食材をお渡ししている私は、今日は食べるだけの許可を頂いています」
「むきー!」
羊が仰ぐ勢いを上げる。
すでに網を乗せて串を乗せていく。
香ばしい匂いと小気味いい音があたりに響く。
「ほら、羊さん。豆です。食べるです」
悪魔はザルを羊のそばに置く。
「今日の調理は羊さんにお任せなのですー」
七輪近くにクモたちが列をなして肉を待っていた。
暑い夕暮れ、宴が開かれていく。
「これも焼いてください」
狐がししとうを乗せていった。渋いな。




