悪魔がウチにおりまして・60
ウチにはお姉が居る。
平穏が訪れる事ってないの?
「なによー。いいお肉が手に入ったからお裾分けでしょ?」
ちゃぶ台に鍋を用意して脂を塗っているお姉ことコハク。
おそらくすき焼きの準備をしているのだが、どう見てもスーパーで売っている肉ではない。
「大丈夫よー。通販では買えるから」
その通販、最近トンデモ品とかも売っているから信用に置けない。
「ニンゲンが食べないのなら、ボクが人間の分まで食べますね」
ちゃぶ台に着いてフォークとナイフを掲げる悪魔。
隣には同じポーズの狐とうぱ。
解せぬ。
「ずいぶんと馴染んだのねぇ、この子たち」
「そう?いまだに見えてないよ」
「そうじゃなくて、私に」
確かに。
ちゃらんぽらんに見えるお姉はこう見えて悪魔を祓うことを生業にしている。
というか、最初は明らかにこのずんぐりむっくりを祓うために来ていたのに、今ではこうしてすき焼きを振舞う関係に…いや、悪魔にプライドないのか。
「ご飯を持ってきてくれるヒトは味方です。ニンゲンの毒ではびくともしませんので」
こちらを向くことなく、焼けるお肉をじっと見てよだれを垂らす悪魔。
「ミミ殿に手出ちしないのであれば、宿主殿の関係者、いわば身内も同然です」
同じくよだれを出す狐。
うぱ、たぶんわかってない。
「あの子は?降りて来ないの?」
天井のクモの巣を指さすお姉。
「クモー。ご飯食べよー」
すると背中に分体をたくさん乗せてクモが降りてくる。
先日のなんか祓いの時に用意した分体たちがいまだに残っているのだ。
「あら、たくさん産んだのねー」
お姉、割とそれ今の世界的にセンシティブ。
「なるほど、消し方分からないのね。こーしてあーして…」
ダシを張りながらクモの様子を見る。
器用な。
ポンっと音がすると分体がすべて消えていた。
慌てるクモ。
「これで平気。出し入れできるように交渉したから。試しにやってみなさい?」
言われた通りにクモが一体分体を出して、消した。
再び出すと、先ほどの者と同じようで楽し気に身体を揺らしている。
クモは何度もお辞儀をしている。
「さ、出来た。食べましょー?」
「わーい!ところでニンゲン姉、この肉は何ですか?」
「羊」
羊のすき焼きがウチにある。
道理でヤツが来ないわけだ。




