悪魔がウチにおりまして・611
ウチには悪魔がいる。
何かに拝み倒している悪魔が。
「何やってるの?」
「ニンゲン!この楊枝を見るです!」
悪魔は、細いつま楊枝を取り出す。
「つま楊枝」
「ですです。このつま楊枝は伝説の剣……だったかも知れないものです」
「付き合わなきゃダメ?」
「今日のご飯、奢ります」
そこまで言うなら仕方ない。
なぜそこまで話したいかはわからないけど。
「はい、どうぞ」
「このつま楊枝、さる仙人から貰ったです。その仙人曰く、このつま楊枝の真の姿を呼び覚ませたら世界を統べることが……ニンゲン?露骨に聞いてないのはNGですよ?」
あー、ごめんごめん。動画の広告が面白くて。
「そのつま楊枝、崇めてたのってそれが理由?」
「……わかってます、騙されたってことは」
うん、物分かりがよろしい。
「お金とか出してないでしょうね?」
「それは大丈夫ですー。交換にボクの抜け毛を渡しておきました」
お互いに騙し合ってるじゃないの。
「で、世界を統べるとか言われて拝んでた感想は?」
「ニンゲン、時としてロマンを追い求める必要があるんですよ」
言い換えれば厨二でしょうに。
「ボクはこの楊枝を!ねぇ、捨てていいと思いませんか?」
「私ならすぐ捨てるけど」
悪魔はじっとつま楊枝を見つめる。
「さようなら、ボクの青春……これでタコ焼き食べたら美味しいと思います?」
味は変わらないんじゃないかなぁ?
「そうと決まれば!ウールーイーツ!タコ焼き食べたいですー!」
「お待たせしましたー。タコ焼きですー」
掛け声と共にクローゼットから、リュックサックを背負った羊が飛び出してくる。
……ウール、羊毛……気にしないようにしましょ。
「タコ焼き、1つですね。5ドルです」
なぜドル請求か。
「ありがとうございます、ツケで!」
「累計500ドルになりますが良いですか?」
溜め過ぎだろうよ。
「請求は牛さんに!」
(はっ倒しますよ……よ……よ……)
脳内に牛の声が!?
「ところで、その楊枝、捨てたほうが良いですよ。呪われてます」
それだけ言うと、羊はクローゼットに戻っていった。
「……は?のろ……は?」
悪魔はガクガク震えている。
ウチには悪魔がいる。
「ひ、ヒヅメが巻き爪に!」
地味過ぎる呪いを受けた悪魔が。




