悪魔がウチにおりまして・606
ウチにはウチがいる。
違った、牛が居る。
牛がご飯を食べたあと神妙な顔をしている。
神妙な顔を判断できるのがおかしいとか気にしない。
「ウチさん!どうしたですか?ご飯半分残ってます」
悪魔、人の揚げ足取るならご飯30%にするわよ。
「実は私、コイ患いでして」
「なんですとぉ!?」
狐、目がぴっかぴか。
「牛殿!縁結びでちたら某の祈祷を是非!」
すっかり忘れていたけど、この狐、恋愛祈祷してたわね」
「恋愛?なんのことです?鯉を食べたらお腹の調子が悪いってことですけど」
鯉患い、物理!
「……祈ればどうにかなるかもちれません……」
狐、諦めなさい?その流れは無理筋だから。
「鯉なんかどこで食べてきたのよ」
牛は悪魔に米を移しながらゆっくり腹をさすっている。
「あっちでは別に普通に食べられますよ。ただ、寄生虫が多いのであんまり人気無いですけど」
なぜ食べたの?
「牛さん!鯉、ボクも食べたかったですー!」
「当たったって話してるのにミミさん、すごいですね」
半ば呆れながら牛はビールを……酒飲むの!?
「そんなもの飲んでお腹悪化しても知らないよ?」
「ほら、駆け付け三杯って言うじゃないですか」
まったく関係ないんだよなぁ。
「牛さん!そのビールはボクのです!」
「冷蔵庫に入っているなら、平等です。今度買っておけば良いです?」
「箱で!ダースでも可!」
悪魔が強欲に落ちると牛は冷蔵庫から3本追加してすべてのプルタブを開ける。
ご飯を食べずにそんなことするとはいい度胸だ。
「ちかし、ニンゲン殿。某もお刺身食べたいです」
狐はじゅるりとよだれを垂らす。
「やだよ。鯉の刺身なんて。たしか下処理面倒なんでしょ?」
「ニンゲン殿、鯉は洗いと言って、厳密には刺身ではありません。なのでマグロでもサケでもクジラでも。お刺身が食べたいのです」
狐がここまでワガママ言うの珍しい。
「ごんちゃん、どうせならカツオにしましょう。これからのカツオは美味しいです」
悪魔までよだれ垂らし始めたよ。
「ミミさん、カツオなら刺身でなくタタキでしょう。表面パリッとあぶって、中はジューシー。最高じゃないです?」
牛、アンタ今日のご飯残してるからね?
「……ニンゲンー、タタキー」
ウチには魑魅魍魎がいる。
刺身に飢えたケモノどもが。




