悪魔がウチにおりまして・604
ウチには悪魔がいる。
ベランダの下で手を振っている悪魔が。
「ニンゲーン!お願いしますー」
「あいー」
返事が悪魔みたいになってしまった。
いけない、いけない。
ベランダから下に向かってホースのトリガーを引く。
下にはシャワーが降り注ぐ。
「恵みの雨ー!」
悪魔は手を開いて水滴を受けている。
どうやら脱獄映画を観たらしい。
聖書を切り抜いて、ぐちゃぐちゃにもしてました。
「自由ですー!」
映画では叫んでないぞー。
悪魔の隣でクマも両手を広げている。
猛獣と一緒に脱獄をするんじゃない。
「ニンゲン殿、水道代の請求はミミ殿にダイレクトでよろちいですか?」
「当然」
狐は鷹揚に頷く。
「ちかし、ミミ殿にも困ったものです。この雨を降らすのに、周囲に通知をちた苦労賃も乗せて構わないでしょうか」
良いと思うよー。
「悪魔ー、水道代+α、別口請求ねー」
「鬼ー!」
「くまー!」
くぅ!ボディーガードが強い!
「……なぜ、普通にクマ殿がいるので?撃たれません?」
狐、正論は時として無意味になるのよ。
「大丈夫ですー!レインコート着せましたー!」
「クマー!」
なんの解決にもなってないのよ、それ。
よく見たらクマは黄色いレインコートを着ている。
「サイズ的には幼稚園児と変わらないですからね」
狐が上から覗き込む。鼻をすんすん鳴らしている。
「あのクマ、シレっといるけどアンタらの知り合い?」
「……じゃないんですよねぇ。なんであんな友好的なんでしょ」
こっちに助けを求める目を向けるんじゃない。
「猛獣が普通に居て、住民から苦情出ないのもすごいわ」
ここのビルに住んでいる人って私らだけだっけか?
……待って?私、1番巻き込まれてない?
「気付いてちまいましたか。普通の人はここにいません」
狐はパンっと手を叩くと拡げてくる。
私、私!ごくごく一般人!
「ニンゲーン!雨ー!」
「あいー!」
悪魔の催促にノズルをストレートに切り替えて狙い撃つ。
「ニンゲン!?強い!強いのです!」
「八つ当たりよ!」
地を這う悪魔がいる。
全部避けやがる悪魔が。




