悪魔がウチにおりまして・597
ウチにはクモがいる。
ででんっとしているクモが。
このででんっていうのは別に擬音ではない。
クモが背中に「ででん」と書いた紙を背負っているのだ。
こんなことしそうなおバカはひとりしかいない。
「悪魔ー、クモで遊ばないのー」
「え?ボクじゃないですよ?ニンゲンだったんじゃないですか?」
するかい、こんなこと。
悪魔の頭にスリッパを乗せながら首を傾げる。
こんな意地悪する相手なんて……。
「なになにー。クモちゃん、自分で乗せたそうですー」
悪魔、スリッパをメガホン代わりして言葉を聞くんじゃありません。
でも、自分で乗せた?なんで?
クモはたくさんの目をこちらに向けて、心なしかキリっとしてる。
「クモちゃん的にはこれからの季節、自分の出番と思ってるみたいですー」
ほわい?これから何かあるの?
「ほら、暖かく……ていうか熱くなって来てるので虫が湧くじゃないですか。虫にとってクモちゃんたちは天敵です」
クモを見る。そしてロフトを見てコモンずたちを見る。
虫って言いますか、人にとっても脅威な気がしますけど。
「人、襲わない?」
クモは両手を鎌にして振り上げている。
悪魔、スリッパで対抗するのはやめなさい。
「ふむ、クモちゃんはグルメだからニンゲンなど食べないと言ってます」
ホントにぃ?
クモがそんなこと言うぅ?
だが、悪魔の言葉に同意するように鎌を戻して胸の前で組んでいる。
「ニンゲンは雑食だから匂いが強いそうです。栄養価の高いのはやっぱり虫だそうで」
気付いてない、気付いてない。
人を食べたことが無ければ出てこない言葉なんて聞こえてない。
「しかし、クモって虫、食べるの?」
「何を言ってるです?ニンゲン」
ウチで普通にご飯食べてるし。
「クモちゃんたち、定期的にこのビルの虫、取ってますよ?」
悪魔から聞き捨てならないセリフを聞いた。
このサイズのクモが外闊歩してたら自衛隊案件よ?
「クモちゃん、姿を消せるので」
悪魔、いくらなんでも……は?
今までクモのいたところにででんって書かれた紙だけ浮いている。
「クモちゃん、戻って良いですよー」
悪魔が声をかけるとスーッと元のクモの色に戻った。
「すごいでしょー?クモちゃん最近できるようになったんですって」
照れたように頭を掻くクモ。
「クモ、家では消えるの禁止ね?」
ウチには悪魔がいる。
「クモちゃん!そろそろやり方を教えてください!」
種族の壁に挑む悪魔が。




