悪魔がウチにおりまして・596
ウチには悪魔がいる。
スコーンをさくさくしている悪魔が。
昨日歯医者の持ってきたスコーン、それを無心でかじっている。
「甘いのなら誰が持ってきても食べるのね」
「ニンゲン、ボクは許してないのです。昨日ボクの目の前でお紅茶とスコーンを貪ったことを」
言い方が悪い!
「仕方ないじゃない。目の前に歯」
「ニンゲン?それ以上の言葉は家出しますよ」
それが脅しになるってなんで思ってるのよ。
「おや、スコーン。ということはあのお方がいらしたのですね」
羊がひょっこり顔を出すと即キッチンに向かう。
「ニンゲンさん、ミミ君。コーヒーで良いですかー」
「コンデンスミルク入れてくださーい」
トルコかな、ここは。
「あの方って言うけど正体知ってるの?歯」
「ニンゲン?アレは悪魔ですよ?必ず打ち滅ぼすべき悪魔です」
歯だけで止めるんじゃないよ。
「あれ、ニンゲンさん話したことありませんでしたっけ?ミミ君も」
3つすべてにコンデンスミルクミルクを入れて羊がトレーに乗せて持ってくる。
「私、ブラックでよかったのに」
このスコーン、甘いのよね。
「まぁまぁ、あのお方が買ってきてくれるスコーンは高級ですから」
それを紅茶に浸して食べたわけで。
「だからあのお方って?」
少しいら立ちながら尋ねると悪魔も耳をそばだてる。
「ミミ君が知らないの、どうなんでしょうね。あのお方って『る」
言いかけたところで羊の顔が真っ青になって背筋ぴーんする。
「羊さん、どうしました?」
「いきなり、寒気と熱と頭痛と吐き気とめまいがっ!」
不快感一括セットなんですけど?
「ほら、コーヒー飲むです。死ぬ前に正体を言うですー」
「心配して!?だからあのお方は『る」
がったーんと羊が椅子から落ちる。
「こ、小指が!足の小指がっ!」
足を抑えて転がる羊。
「羊さん、遊んでるですー?」
「コレを見て遊んでるように見えますかっ!」
涙目の羊が足をふーふーしてる。
「もう嫌です!スコーンを持って帰ります!」
羊はビニールにスコーンを積めて帰ってしまった。
「何だったんだろ?」
「びばっ!のろいっ!」
机の裏から飛び出してくるイモ虫。
思わず投げ飛ばしたのは言うまでもない。
ウチには悪魔がいる。
「スコーン、美味しいですー」
羊のことなど忘れてそうな悪魔が。




