悪魔がウチにおりまして・595
ウチには歯医者がいる。
優雅に紅茶している歯医者が。
あまりにも久しぶり過ぎて誰かわかりませんでした。
「……えっと、歯医者さん?」
「思い出してくれてどうも。忘れてたでしょ?」
相変わらず掴めない。
伊達に悪魔やって無いなぁと思う。
「いきなりどうしました?」
ウチに来ることなんてこれまでなかった。
なんなら悪魔が本気で嫌ってるし、そのことも察しているかと思っていた。
「いやぁ、時の流れ?別次元の力?嫌だよね、ボクは静かに暮らしていたいのに」
よくわからないこと言ってる。
「来るのは結構ですけど。悪魔は?」
「あぁ、騒がしいから閉じ込めてる」
「しゃー!しゃー!」
壁に見慣れぬ檻が作られて、その中にいる悪魔が威嚇してる。
え、本人を目の前にしてこの態度なの?
「いやぁ、元気でよろしい。でも紅茶ひっくり返すから大人しくしてもらってる」
「しゃーーー!」
笑顔で言うなし!逆に怖いから!
「もしかして、本当に遊びに来ただけ?」
「そうだよー?今日休診だからね」
歯医者はカップを口に運ぶ。
「どう?持ってきた茶葉でよければ。スコーンは嫌いかな?」
「すこぉーん!」
「あのうるさいのの口封じできません?」
「その言い方剣呑すぎるでしょー」
歯医者は苦笑いを浮かべながら指パッチンすると、悪魔の口にファンシーなマスクがくっつく。
「むぐっ!?むぐー!!」
「ほら、風邪予防にもなる」
この歯医者の方が剣呑じゃない?
「さ、宝田……ニンゲンさん。スコーンを紅茶に浸けて食べるのは邪道かな?」
「なぜ言い直したし」
「だってあなたを宝田メノウって知ってる人の方がすくないじゃないー」
ぐさっ!確かに呼んでくれる人……てか、人が周りにいないのよ!
「むぐーんっ!むぐーんっ!」
「ほぉら、美味しい美味しいスコーンだよぉ?チョコチップ入りだよー?」
「むっぐぅぅぅ!」
……本当に良い性格してる。
ウチから歯医者が帰る。
「むぐー!?むーぐー!!」
悪魔を檻に放置していった歯医者が。




