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悪魔が昔におりまして・591

今は昔。

悪魔といふ者ありけり。


「にむげむ、今日も日柄よく、天道が良き日なり」

「悪魔、普通に喋ろ?」

「ですね、無理があります」

着物を着た悪魔は耳をぴこぴこ揺らしている。

時代的には平安かな?

「なんで私たちで時代劇?」

「それはボクが主役だからです!」

どこからか響く高い声。

声の方向から牛車が進んでくる。

引っ張ってるのは二足歩行の牛と羊ってことが大問題なんだけどさ。

「私の役回り、最近不憫じゃありません?」

「牛さん、贅沢言ってはいけません。天使さんとか神ちゃんとか、まったく出てこなくなりました」

悪魔ー、メタいよー。

「羊殿、牛殿、ありがとうございます。平安……それは魑魅魍魎の跋扈する世界……。ちなみにボクは幼い設定なので口調のキャラ付けは無しです」

普通逆なんだよなぁ。

「ごんちゃん!なんか偉そうな恰好してるのにボクらは農民服なのですか!」

悪魔は牛車に乗ったままの狐に文句を言う。

確かに身分差がつき過ぎている気がしないでもない。

「その通りっ!牛さんはわかります!なぜ私が肉体労働なのですかっ!」

白と黒、まだらに塗られた羊には文句を言う権利ありそう。

「おっと手が」

狐は羊に向かって小判を投げる。

「ミミ君!ドラマというのは役割を演じてこそですね!」

なんか清々しい買収を見た気がする。

「さて、我々はこれから大ムカデ退治に行かねばなりません。ミミちゃんも行きますか?」

手で大きくバッテンを作る悪魔。

「イヤ!です!ボクたちがムカデ退治?それは藤原さんの仕事です!歴史が変わってしまうですー!」

近所のお兄さんみたいな気安さで藤原言うな。

「……黙っていましたが、何を隠そうこの僕が安倍……」

「狐ちゃん、ストップです!」

ギリギリ有り得そうなフィクション織り交ぜるのやめなさい。

「なぜですか!ボクも主役なら暴走しても良いでしょう!」

ちらりと、いつも暴走して大事を起こしている悪魔に視線が集まる。

「……ボク!そんな暴れてないですよ!?」

え、自覚無いの?

「ところでこんなタイミングだけど、目覚めの時です」

牛がのんびりと懐中時計を開く。

「ま、まだボクの活躍が……!」

「タイムアーップ」

ぱたりと閉じた懐中時計と共に景色は暗くなっていくのでした。


ウチには狐がいる。

涙を浮かべながら天井を眺める狐が。

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