悪魔がウチにおりまして・587
ウチには悪魔がいる。
さっきからずっとフライパンを動かしている悪魔が。
「いちおう聞くけど、何してるの?」
「モヤシ炒めてます」
まぁ、IHの隣にうず高く積まれたモヤシを見ればわかるんだけど。
「なぜモヤシ?」
「貧乏の友だちだからです」
悪魔は血涙を流しながら振り向く。
そのケチャップはちゃんと食べるように。
「なんでそんなにお金無いのよ」
「ぇえ……?」
どう発音したの、それ。
「ニンゲンは鳥頭なのですか?ボクが繰り広げたあの死闘を存じ上げないと!?」
昨日のアレ、ちゃんと繋がってたんだ。
いつもの世界に対する補正力でなかったことにされているかと。
「ニンゲン?それがされたらボクがゲットしたキャラ消えません?」
アンタの目のハイライトが先に消えてるよ。
「そのモヤシ買うお金取っておけば良かったんじゃない?ご飯は出るんだし」
わざわざ買ってこなくても……。
「ほら、モヤシ生活って1度して見たかったんです」
要するにポーズじゃない。
「……何袋買ったのよ」
モヤシピラミッドを見て高さを測る。
35……いや36センチ!
こういう時スマホって便利よねー。
「えっとー、スーパーのヒトが泣いてました」
私は、数を聞いたのですが?
「勘弁してください、こんなにモヤシばかり買われたら、私たちは明日から何を食べればいいのですか……とか言われたんですけど」
そのスーパーが大丈夫?
いつも行ってるところなら替えた方がいいかしら。
「ボクは、モヤシが無ければ納豆を食べればいいのです、と答えて買い占めました」
大豆トワネットしてるんじゃないわよ。
「ちなみにおいくら万円?」
「えっとー、レシート……9,000円?」
「…………」
「ニンゲン、なにか言うです」
「信じられないことが起きると、本当に言葉って出てこないんだね」
そりゃスーパーの人、泣くわ。
「……悪魔、あんまり目立つこと、しないでね?」
「別に大丈夫ですー。みんな道を開けてくれましたから」
引いてるんだよ、それ!
ウチにはバカがいる。
「モヤシってアシ早いよ?」
「……ニンゲン、手伝ってくれますか?コレは豆板醤炒めです」
しばらくモヤシ生活なんて嫌だー!




