悪魔がウチにおりまして・581
ウチには牛がいる。
葉巻をぱっちんしている牛が。
「自宅でやれよー」
キャラが崩壊するクレームを入れると牛はくるりとこっちを向いた。
「良いじゃないですか。ご近所同士持ちつ持たれつ」
ご近所だから自分の家でやってほしいのだろうが。
ちなみにこの牛、一階上がって羊の部屋の上。
つまりウチからは斜め上に居を構える、れっきとした悪魔族だ。
狐、入居者ほとんど魔族では?
「今ウチでトンポーロー作ってまして。湿気は葉巻をダメにしますから」
悪魔といいコイツと言い、なぜ室内でやるべきでないことをやるのだ?
「で?本当の理由は?」
この牛がブタ肉を蒸しているという理由でウチには来ない。
なんらかのアリバイ作りのために本当に蒸しているんだろうけどさ。
「いやね、最近私ここに来れてないじゃないですか……無いじゃないですか、出番!」
それ気にするやつでしたっけ!?
「身内がうるさいんですよ、やれ人気ないだとか、やれ干されただとか。誰がジャーキーだって言うんですかねぇ」
ツッコまんよー、食べても美味しくなさそうだし。
「なので、用事なく顔出しました。悪いですか!」
「悪い。邪魔」
「そこを何とか」
ノータイムで媚びてきたことを考えると読まれていたようです。
「葉巻なんてシャレた趣味無かったでしょう」
「実はですね、葉巻を吸っているとモテると小説で読みまして」
どこのウソ情報だ、それ。
「ちなみに作者は」
「ひだつつじさん」
「わざとやってる?」
それ、羊のペンネームじゃないの。
牛は目を丸くする。
どうやら本当に知らなかったようだ。
「ニンゲンさん、良いじゃないですかー。あなたもどうです?クレープ記事で巻いた、チョコ葉巻」
悪魔みたいなことしてるんじゃないの!
「ほう……ボクがひとつ頂いても?」
突然床下から生えてくるモグラ。
心臓に悪い、せめて天井になさい。
「ふむ、ふむ……三田角さん」
「牛です」
「このアイディア持ち帰っても?ええ、悪いようにはしません……」
「ほう?それならばこのあと時間でも?ザリガニさんのセンスは知っているでしょう?」
にやりと微笑むモグラ。それに微笑み返す牛。
……ザリ、頑張ってねぇ。
数日後、ウチには試供品が届く。
「ニンゲン!このシガフィーユ、美味しいです!」
ちゃっかり牛の顔印刷されてんだけど。




