悪魔がウチにおりまして・576
ウチには悪魔がいる。
ぼーっと空を見上げている悪魔が。
「何見てんの?」
「空ですー」
知ってんのよ、それは。
「空の何を見てるのよ」
「あえて言うなら、雲?ニンゲン、お空を見るのに理由はありません」
ときどきコイツ、こんなのんびりしたところがあるんだよなぁ。
それきり、再び黙って空を見ている。
仕方ないなぁ、付き合ってあげましょう。
悪魔の座るベランダに七輪を持ってくる。
軽くあぶった炭のかけらを放り込み、はたはたとうちわであおぐ。
「ニンゲン、無粋です」
「そう?私だけでいいならそれで」
「……何を焼くですか」
落ちるのが早いのう。
「何が良い?鮭と、ホッケ。トリュフがあるけど」
「……1個おかしくありませんでした?」
アンタの友だちが置いていったんでしょうが。
「食べ方わからないんだもの。焼いたら食べれるんじゃない?」
「トリュフはちゃんと食べたいのです……」
ワガママ言う子ですこと。
はたはたと七輪が出来上がっていく。
その上に網を置き、余熱で温めていく。
クモとうぱがちょこちょこ歩いてきた。
クモの手には……胸肉?
「悪魔、胸肉でいい?」
「お魚どこに行ったのですか」
「クモが食べたいって」
渋い顔でクモを見つめる悪魔だが、それ以上は言わない。
「味付けは?」
「バジルが良いです」
要求はしっかりするのですね。
網に乗せると小気味いい音が鳴る。
うん、お腹が空く。
クモとうぱはフォークとナイフを構えて踊っている。
危ないからやめなさい。
適度に焼けたところでトングを使ってひっくり返す。
「バジル……今塗るの?」
「ですね、軽く焼くと香ばしいのです」
はいはい。ハケを使ってバジルソースを塗る。
じゅくじゅくと泡が弾ける。
「ビール?」
「ハイボールが良いです」
酒は飲むんだねぇ。
ハサミで焼けた肉を切る。
お皿に盛って待ってる2匹のために床に置く。
「ニンゲン、こういうのも良いですね」
……確かにね。
ウチには悪魔がいる。
時間の使い方が贅沢な悪魔が。




