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悪魔がウチにおりまして・571

ウチには悪魔がいる。

換毛期のブラッシングをしている悪魔が。


「悪魔が問題を起こしていない……?」

「あの、別にボクは普通にしてるだけなんですが」

ほら、普段の行いのせい?

「ニンゲン、ちょうどよかったのです。背中、背中お願いします」

悪魔は持っていたブラシをこちらに渡す。

まぁ、それくらいならしてあげましょう。

背中を向ける悪魔にブラシを当てる。

ひと撫でごとにごっそりと抜ける毛。

人によってはトラウマになるレベルで抜けていく。

「……こんなに抜けるの?」

「最近温度の上下のせいで毛の調整がバグっているのですよー」

そんな理由でこんなに抜けるなんて大変ねぇ。

「この毛、何かに利用できない?カーペットとか」

せっかくたくさん採れるんだから、羊の毛みたくなにか……。

「ニンゲン?自分の毛が床に敷かれる気持ち考えてください」

そんなナイーブな精神を持ってることに驚きです。

「しかし、終わらないわねぇ。コロコロでやっていい?」

ブラシに詰まる毛を取るのが面倒になってきた。

「ダメです。コロコロは痛いのです。皮膚が引っ張られます」

そんなナイーブな肌を持ってることに驚きです。

「あと、コロコロだと巻き込まれて飲み込まれます。ボクの毛は強情なのです」

コロコロ持っていくほどの毛って何よ。

「クモー、刈り取ってー」

ロフトで寝ているクモを呼ぶとのっそり降りてきた。

「刈るんじゃなくて抜いて欲しいのです」

「それなら背中だけもさもさにしておく?」

「……くぅ、ヒトでなしー」

諦めたようで床に寝そべる悪魔。

クモはシャキンと鎌フォーム。

ところでこの子、脚と鎌切り替えできるのなんでなんでしょ。

寝ている悪魔に鎌を当てて剃るように滑らせる。

……剃るように?

悪魔の地肌って毛と同じ緑だったのね。

「背中、すーすーします。……泣く準備してます」

自分の背中だもんね、状況わかるよね。

「クモ、ストップ」

腰辺りまで鎌を滑らせていたクモはぴたりと止めた。

「良いんです、背中に手が届かないボクが悪いんです……」

あー、本気で泣いてるよ。

「ほら、すぐ生えるでしょ?」

「そうですけど……」

そうなのかよ。慰めのつもりで言ったのに。

「ちなみにどれくらいで?」

「明日には?悪魔族は身体の形状を一定に保つのです」

ほう、なるほど、なるほど……ん?

「ブラッシングの意味は?」

「ほぼ無いです」


ウチには悪魔がいる。

クモに押し潰されている悪魔が。

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