悪魔がウチにおりまして・570
ウチには悪魔がいる。
ベランダをじっと見ている悪魔が。
「ニンゲン、今、何月ですか?」
「5月でしょ?」
朝っぱらからカレンダーでわかること聞かないの。
「ですよねぇ。ニンゲン、お外が雪です」
「なにをバカな」
いくら冗談でも信ぴょう性が……うん。
目の前に広がるのは、見渡す限りの銀世界。
深々と降り注ぐ雪に思わず息を漏らした。
「ニンゲン、キレイな表現をしても現実です」
少しくらい目を逸らさせて欲しい。
こんなトンデモ、なんで起こってるのよ。
「まさか、アンタが」
「ニンゲン。ボク、寒いの嫌いです。何かやるにしても寒くなることは絶対にしません」
昨日の狐より近い悪魔の勢いに思わず頷く。
確かにコイツ、自分が嫌がること絶対にやらないわ。
「じゃあ、雪なんてなんで?北海道ならいざ知らず」
「わからんです。雪、滅べです」
寒さに対しての当たりが強すぎるでしょうよ。
「ふぅ、寒いですねぇ。ニンゲンさん、熱いコーヒーなど」
「自分で煎れなさい」
玄関から頭に雪を乗せた羊が入ってくる。
部屋に入るなら雪を払いなさい。
「……羊さん、ひとつ質問が」
「なんでしょう、ミミ君」
羊がヤカンを火にかけてリビングに来ると悪魔が低い声で尋ねる。
「今日、寒いですね」
「雪ですから」
お、なんか面白そうだから放っておきましょう。
「こんな異常気象、滅多に……なんか最近よくある気がします」
それじゃダメじゃん。
「本当に困ったものです」
羊はいつの間にか丸眼鏡をかけている。
「羊さん、天気がよく変になるのはいつからでしたっけ」
「およそ5年前ですね」
「天候管理をする者が変わったのは?」
「……5年前ですね」
おっとキナ臭い。
「最後にひとつ……今日の神ちゃん、何か言ってませんでしたか?」
「……勘の良い悪魔は嫌いだよ」
この雪の原因、身内じゃねぇか!?
「羊さんー!さっさと直してくださいー!神ちゃん叱ってくださいー!」
「無理ですよー。お仕事を家庭に持ち込むとあとあとご飯が抜きに……あれ?その方が幸せかも?」
まだメシマズ作ってるのかい!
ウチには悪魔がいる。
「羊さんが神ちゃんのご飯マズいって言ったってフカします!」
それ、人類滅亡トリガーにならないよね?




