悪魔がウチにおりまして・53
うぱが来て数日。
まだなかなかなじめないようで。
「クモー。ご飯だよー」
クモは呼ばれるとするすると降りてきて自分の分を取ると天井に張ったロフト風クモの巣に戻っていってしまった。
うぱが来てからというものの、クモは極力自分の巣に籠ってしまっている。
そうする気持ちはわかるが、そのことが無駄なことは私は見えている。
なぜならうぱは今クモの巣の脇で身体を揺らしてクモを眺めているからだ。
そのことをクモはなんとなく感じるようで巣を左右に揺らして追い払っている。
そのことにうぱはむしろ楽しそうにぶら下がっているのだが。
「クモさん、降りて来ませんねぇ」
悪魔が納豆を混ぜながら上を見上げている。
「まぁ、アンタらが馴染みすぎなんだよ」
「ら」と表現したということは。
「うぱ殿、今日はどこに居るのですか?」
食事のたびに狐はキョロキョロあたりを見回す。
クモを気遣い指だけ差すと目を凝らしてじっとクモの巣を見る。
「…未だ見えません。宿主殿、本当にあちらに居るのですか?」
疑うなし。
この子にとってうぱが見えることがわかりやすい修行の成果らしいから仕方がないのだけど。
「クモちゃんも見えないことを気にしても仕方ないのにー」
いい頃合いまで混ぜた納豆を皿に移し、混ぜ器を流しに置く。
「クモー。諦めて降りてきなさーい」
おずおず顔を出して壁をつたって降りてくるクモ。
糸で皿を背中に縛る技術はいつの間にか習得していた。
さすがに8つ脚に流しまで戻させるわけにはいかないのでちゃぶ台に置かせる。
「クモ。アンタがうぱを警戒しているのはわかる。でも今のところこっちに触れたりほとんどできないんだから心配しても仕方ないでしょ?」
こくりと頷くものの、産毛は逆立ったままである。
感じてしまった不安を人に言われたからって拭えるわけでないのは知っている。
うぱは隣にちょこんと座って一緒に話を聞いている。
言ったらビビると思うから言わない。
「うぱも気にしてアンタのこと見てるけど、何もないでしょう?」
今回は不承不承頷いた。
事実、巣にぶら下がっていたからね。
「すぐに慣れろとは言わないけど、居るんだから諦めて。アンタより見えてる私のほうが気になるんだから」
これは本音。
私の言葉を聞いてうぱは腕にしがみついているんだし。
納得はしていないだろう。
でも頭のいい子だ。
少なくとも普段通り振舞ってくれるはずなのだ。




