悪魔がウチにおりまして・547
ウチには悪魔がいる。
「ニンゲンー、カレーが逃げましたー」
アンタ、今なんてった?
泣きながらリビングに来た悪魔が言ったことを聞き返す。
2度聞きしても返ってくる答えは同じ「カレーが逃げた」
「アンタ、料理するといつも問題起こすわね」
この前なんかスイーツ爆発させてなかった?
「ボクは普通に料理してるだけですー。今回は悪くないですー」
悪魔は腰に手を当てて胸を張る。
「今回、間違いなくミミ殿は普通にカレーを作っておりまちた」
様子を見ていた狐がフォローを入れる。
それだったらカレーは逃げないでしょ。
「いきなり鍋に足が生えてきたんですよー」
そんなバカな。
「某も見てまちた。火にくべている最中にゅっと」
「……ちなみに、どこに逃げたの?」
鍋が走っている怪奇映像を想像しながら悪魔に尋ねる。
実際、表でそんな物が走っていたら大騒ぎになってしまう。
「走って窓からぴょーんって」
悪魔はベランダを指さしている。
「ベランダー?……落ちてるわよ」
言われた通り下を覗くとそこから見える地面に鍋が転がっている。
「ボクのカレー!?」
後ろから付いてきた悪魔は叫び声をあげて今にも飛び降りそうな勢いで身を乗り出す。
「危ないから。階段使いなさい」
そのまま落ちてもケガひとつ無いんでしょうけどね。
「そんな暇はありません!ボクのカレーが!奮発して牛タンを入れてるのです!」
それは慌てるわ。
てかコイツ、この前ケーキで散財してたのによく買えたなー。
「カレー!」
言ったそばからベランダから飛び降りていく悪魔。
ずどんっと豪快な音で地面に着地……いや、頭から行ったな。
その衝撃で鍋が転がりまっすぐ立つ。
するとそのまま移動を始める鍋、本当に足が生えてるように見える。
「カレー!」
しかしこの高さから落ちても中身をこぼさないとは。
怪異ながらあっぱれ。
「元気ねぇ」
「元気でまとめるニンゲン殿、強いですねぇ」
狐が隣に来て鍋を追いかけまわす悪魔を見下ろしている。
「あんな大暴れさせていいの?あの鍋外に逃げない?」
「結界があるので。今夜のおかずはタンカレーですね」
狐、よだれ拭きなさい。
「あたーっく!」
悪魔は鍋にタッチダウンを決めた。
ウチには悪魔が戻ってくる。
「中身は無事です!」
持って帰ってきた鍋は思った以上にごつい足が生えてました。




