悪魔がウチにおりまして・546
ウチには悪魔がいる。
「ミミ君、手紙置いて出ていきました」
「は?」
ウチには毛玉のような悪魔が住んでいる、のだが。
目の前にいる羊が悪魔が書いたという手紙を持っている。
「どうするの?これから”悪魔がウチにおりませんで”って言わなきゃダメ?」
「ニンゲンさん、メタい、メタ過ぎます。それに私も悪魔族ですよ」
そうか、それなら今はウチにおりましてで良いのね。
「ところで中身は?」
「見てるわけないじゃないですか。ほら、しっかりと『ニンゲンへ』って書いてあります。
しかも蝋留めまでしてある。
そのハンコが悪魔の顔をしていて無性に腹立つ。
「羊、ペーパーナイフ持ってる?」
「クモ君に頼みましょう。クモくーん」
羊が呼ぶとクモが目を擦りながらロフトから顔を出す。
お昼寝中ごめんね。
クモに手紙を振るとのそのそと降りてきて封筒をトントンと整え、端に鎌を通す。
「ありがとねー、さて」
中から手紙を出すとふたつ折りの紙が1枚。
『旅に出ます。夕飯には帰ります。ミミ』
日帰り旅行じゃん。
「……ミミ君、それ置き手紙する意味はあるのでしょうか」
羊の言う通りだよなぁ。
「あの子、引きこもりの癖に旅なんか行くんだ?」
思わず漏らした感想に羊が首を傾げる。
「ミミ君、割とアクティブなイメージありますが。確かにここに住むようになってから家に居ること増えましたねぇ」
羊が含みを持った、わかりやすく言うとニヤニヤしながらそんなことを言っている。
「何か言いたいことでも?」
後ろ手を取って関節を極めると羊は床を叩いている。
「ぎぶっ!ぎぶっ!暴力反対です!」
あまり痛めつけると担当から文句言われるからこのあたりで解放しますか。
「ふぅ……からかうのも命がけです」
本当に取ってやろうか?
「考えたらわざわざこっちの世界に来るようなヤツ、向こう見ずじゃないと来ないか」
「言い方悪いですねぇ。なんのかんのここの生活気に入ってるんじゃないですか?」
……まぁ、悪い気はしないけどね。
ウチには悪魔が”帰って”くる。
「いやぁ、楽しかったですー。これ、お土産です!」
「もみじ饅頭……悪魔、日帰りだったよね?」
少しゆっくり楽しんできても良いのよ?




