悪魔がウチにおりまして・539
ウチに手紙がある。
宛名が羊の手紙が。
「羊ー、手紙間違って入ってたー」
ビルのエントランスに並んでいるウチのポストに入っていたのだが、どちらもネームタグを付けていないので間違えるのは仕方ない。
「おや、すみません……うげぇ」
手紙を見た瞬間に顔を歪ませる羊。誰からだろう?
「もうそんな季節ですか」
「誰からの手紙?」
「政府です」
そんなアホな、と手紙の封筒をよくよく見ると区役所からだった。
「羊、アンタ納税してたのね」
「偽造とはいえ戸籍がありますからね。毎年この時期は億劫です」
しれっと犯罪行為を告白してるが、悪魔族である羊にこっちの戸籍があるわけがなかったのだ。
「わざわざ戸籍取る意味あるの?手続き増えて面倒なだけでしょうに」
私の周りで確定申告の阿鼻叫喚を聞いていると好き好んで手間を増やす理由がわからなかった。
「確かにそうなんですけど。戸籍取っておかないとこっちで働く時に面倒じゃないですか」
「そっか、アンタ作家しててお金も貰ってるんだもんね」
作家という言葉を出した瞬間、羊の目から光が消える。
「今となっては、なんで始めたんでしょうね。やらなきゃよかったです」
「あ、担当さんどうも」
私の前から羊が消えた。言葉としては「たんと」くらいのタイミングで消えていた気がする。
「……冗談よー、帰って来なさーい」
……25、26、にじゅ……あ、お帰り。
「ニンゲンさん、冗談はヒトを楽しませるために挟むものですよ!」
「アンタ、悪魔だし」
「呼んだですかー?どうしました、羊さん。今にも戦争を起こしそうな顔をして」
からかってない方の悪魔がクローゼットから出てくる。
戦争しそうな顔ってどんなのよ。
「悪魔って納税してるの?」
「してますよー、あ、してないですー。ボク稼ぎが少なすぎるので免除です」
よくわからないけど、コイツもこっちの戸籍を持っているのか。
「……もしかしなくても、その偽造バレたら私も罪に問われない?」
私の言葉に悪魔ズは顔を見合わせる。
「大丈夫ですよー、今までバレたことないらしいですしー」
「それに私たち、そんなことあっても捕まりませんので」
私は私の心配をしているんだよ。
ウチには密入国者がいる。
「狐ちゃんも戸籍あるの?」
「ありますよ、たまに死亡届出ちてます」
ブラックジョークが過ぎるんだよなぁ。




