悪魔がウチにおりまして・52
ウチにはうぱが居る。
いつの間にか馴染んでいるうぱが。
「ニンゲン、良いですか。得体のしれないものと交流してはいけないのです」
朝早く、畳から生えてきた羊は正座しながら枕元に立っている。
無礼だが、この羊を布団に引き込む気にもならず適当に相槌を打つ。
「いきなり人に家に来て我が物顔で住まう生き物は危険です。即、追い出す必要がありますよ」
特大ブーメラン、痛くないのかなぁ。
「羊、アンタもうぱ見えないんでしょ。なら気にしたら負けだよ」
あくび交じりの答えに、しかめ面を浮かべる羊。
「いい加減私のことはヤギとお呼びください」
怒るところ、そっち?
「それは良いとして。見えないからこそ危ないのです」
真面目な顔で説教しているけど、そのうぱがアンタの角、めっちゃ引っ張ってるの気付かないから説得力がない。
面白いから少し放置しておこう。
どうやらうぱは羊の角が取れるところが気になっていたようで、どうしたら取れるのかと上下左右いろいろな方向からぐいぐい引っ張る。
「見えないということは攻撃をされても気付けないということ。どうします?強力な武器で襲われでもしたら…」
「そうは言っても、私は見えてるし」
「甘い、甘いですよ!」
羊が前脚をびしっと突き立てる。
うぱも同じポーズをしている。
「声は聞こえないのでしょう?どうしますか、襲撃の打ち合わせを堂々としていたら」
…今アンタのヒヅメでくるくる踊るこの子が?
「ともかく、わけのわからないものは近付かぬが吉、早急に距離を…」
「ただいまですー。うぱちゃん、お土産ですよー」
そんな中、悪魔が玄関から帰ってくる。
中に入るまで地雷子ちゃんで居なさいとあれだけ言っているのに直らないなぁ。
「今大事な話をしているのです」
「ヤギさんとニンゲンはそのままでいいですよー。うぱちゃーん、いちごみるくですよー」
悪魔には相変わらず見えないようでテキトーな方向を見ている。
うぱは既に悪魔の買ってきたペットボトルに頬ずりをしている。
「…うぱ、喜んでるけど」
「…減給です」
「パワハラで労基に訴えますよー」
あっちに労基あるの!?
羊の心配をよそに戯れる悪魔とうぱ。
私も不安がないとは言わない。
ただ昔から伝わる言葉がある。
寝た子は、起こすな。
今は寝ているかも知れない。
寝かしておいたほうがいいでしょう?
 




