悪魔がウチにおりまして・536
ウチではサバが歩いてる。
……今、私なんてった!?
自分で何を言ったのか、信じられないことが起きている。
まず第1。生きたサバがウチにいること。
それはまだいい。活け造りとかあるから誰かが買って来た場合もある。
第2、これが問題。
サバに脚が生えてる。そんでもって歩いてる。
サバって魚類よね?脚は無かったはずだし、なんならエラ呼吸よね?
陸上でこんな風に歩いていていい生き物じゃないはず。
しかし目の前で、リビングを我が物顔で闊歩している魚類がいる。
いや、我が物顔と言っても魚類の顔色はわからない。
こっちに気付いたのか身体ごとこちらを向いてじっとしている。
「ニンゲン、どうしたですー?……なんですか、これ」
「悪魔じゃないの、連れて来たの」
てっきりまた悪魔が拾ってきたものだと。
「ボク、お魚の知り合いいないです。ニンゲンじゃないですか?」
私にもいてたまるか、こんな知り合い。
出てきた悪魔と私を見比べているサバ、首が無いせいで身体ごと動かすのでそのたびにヒレが身体に当たりびちびち鳴っている。
「とりあえず捌きます?」
「悪魔、ステイ」
台所に向かうんじゃない、捌いても食べませんからね?
「だってサバはアシが早いと言いますよ?早く絞めて食べましょう」
アンタにはコイツに付いた立派な脚が見えないのか。
「……ニンゲン、細かなことを気にしたら生きていけません」
細かいかなぁ!?種族の超絶って細かいかなぁ!!
そんなやり取りを無視してサバは風呂場に向かう。
尾ビレで蛇口をひねると水浴びを始めているんだけど。
「干からびる寸前なのでしょうか、やはり早く食べないと」
食欲から離れなさい。
「アンタ、どこから来たの。言葉わかる?」
正直わかられても困るけど話し合いで済むならさっさとおかえりいただきたいものである。
サバは水を浴びながら胸ビレでどこかを指し示す。
「ひとりで帰れる?迷わない?」
私の言葉を気にすることなく水から飛び出すとそのままクローゼットに向かって歩いていく。
「待つです、夕飯!」
「お前が待て!」
なおもサバを捕まえようとする悪魔を抑えてそのままサバにお帰り頂く。
「なぜですか、ニンゲン!あんな大物、今後いつ見つかるか!」
「見つけんでよろしい!」
今見たものは全部夢だ、いいね。
ウチでは何事もない平和が……。
「サバが!?歩いてる!?」
狐、それは見てないんだ、気のせいだよ!




