悪魔がウチにおりまして・533
ウチには悪魔がいる。
どんぶり飯かっ込んでいる悪魔が。
「こっちの親子丼も絶品ですー」
既に7杯目に手をかけた悪魔は、勢い衰えることなくコメを頬張っていく。
まぁ、この子がこの量食べることはいつものことなので驚きはしないけれども気になる言葉がひとつ。
「こっちの?あっちにも親子丼あるの?」
「もちろん。親子を痛め付けてご飯の上に乗せる料理でしょう?」
言い方。間違ってないけども。
「それは良いんだけど、そっちの”親子”ってなに?」
少なくともこっちのニワトリはいないでしょう。
「フェニックスです」
……聞き間違いよね?
「そっかー、コカトリスかぁ」
「ニンゲン、シレっと種族変えてはいけません。フェニックス、不死鳥ですよ」
信じられるわけないでしょう、伝説のモンスターの親子丼なんて。
「ニンゲンさん、信じられないかも知れないでしょうけど事実ですよ」
牛が七味を振りながら口を挟む。
「伝説なんて今は昔、昨今は食うに困ることが増えたらしくてですね。文字通り身を売って生きているんです」
「……不死鳥よね?」
死なないから不死鳥よね?
「死なないと飢えないはイコールじゃないのですー。むしろ死ねないからお腹減るの嫌がる子がほとんどですよ」
世知辛い世の中なのね……。
牛がかけ過ぎた七味に慌てている。戻すな、戻すな。
「まぁ、どうせ3時間で元通りなんで。割とみんなお気楽に屋台やってますよ」
「……もうめちゃくちゃじゃない?」
切った端から再生してるの、結構グロいと思うのは私だけ?
「不死鳥族、血は出ないのですー。代わりに切ったところから火花が出て、それをパフォーマンスしてる子もいます」
えっと、なんていうか……芸人枠?
「ニンゲン、何気に失礼なこと考えてません?」
「だって……なんというか、その、格が」
不死鳥ってそこそこゲームとかでも強いボスなのに、食うに困って親子丼って。
「ニンゲン、それを言い始めたらこっちではタヌキをおソバに乗せるのもみんなびっくりしますよ」
「あー、それ私も思いました。狐食べるのっても」
悪魔ズはカルチャーショックネタで盛り上がっている。
くぅ、疎外感!
「呼びまちたか?」
こんなタイミングで狐がひょっこり顔を出す。
「ごんちゃん、しかじか」
「……え?不死鳥、食べるの?え?」
狐もドン引きしてるじゃないの!
ウチでは食事談義が始まる。
龍の卵、美味しいそうです。




