悪魔がウチにおりまして・526
ウチには悪魔がいる。
お湯を混ぜ続けている悪魔が。
怖いんだけど。
キッチンで鍋にお湯を注ぎ、ゆっくりを混ぜ続けている悪魔。
あんまりな行動のせいで、声をかけるのすらためらわれてしまう。
「……狐ちゃん、悪魔、変よね?」
「ミミ殿が?いつものことではありませんか」
ここの友情関係も変と言えば変なこと、忘れていた。
「今日もお野菜の購入、ありがとうございます」
半ば押し売りのモグラがクローゼットから出てきた。
「モグ、悪魔がおかしいのよ」
「タヌキです。一時期仲間の可愛い姿が溢れていました。……もう見なくなったの寂しいです」
知らんがな。
土の付いたダイコンを受け取るとキッチンを指さす。
「ミミちゃんも料理くらいできるでしょ。さすがにニンゲンさんの変のハードル低いです」
「なら、見てきなさい」
首を傾げるモグラはキッチンに向かって鍋を覗く。
あ、戻ってきた。
「変ですわ。我が目を疑ったのは初めてです」
でしょ?おかしいでしょ?
「ここは公平を期ちてジャンケンなどいかがでしょう?」
狐が肉球を出す。
反射的に握ってしまう。
「ニンゲン殿、なりませぬ。肉球は意外と繊細でちて」
残念……もふもふタイムだったのに。
「最初はパー、はい勝った」
掛け声と共に手を開くと狐が人に向けて良い目をしていない。
「某、こんな極悪な存在と暮らちていたのですか……!」
はい、負けたのだからさっさと行く。何気にモグラも勝っているのが信じられないんだけど。
「ごんちゃん、公平を期したでしょ」
「期ちてないもん……」
とぼとぼとキッチンに向かう狐。
「ミミ殿、ニンゲン殿は悪辣です。先ほどからなぜお湯を混ぜているのですか?」
最初の言葉、いる!?
悪魔は振り返るとぽろぽろと涙を流し始めた。
「……やっと、話しかけてくれたです……。辛かった……。エイプリルフールでコレをカレーと言いたかったです……。でも、誰も話しかけてくれなくて……引っ込みがつかなくて……ごんちゃん……!」
えと……くっだらな!
抱き着こうとする悪魔を手で押さえながら狐は残酷な真実を告げた。
「ミミ殿、今は、3月です」
ウチには悪魔がいる。
その場で膝から崩れ落ちた悪魔が。




