悪魔がウチにおりまして・525
ウチには羊がいる。
担当に見守られながら原稿を書いている羊が。
「見守る、なんて生易しい状況ではない気がしますが」
羊は椅子に縛られて原稿を書き上げるまでそのままでいるように言われているからである。
「だってー。羊が原稿の締め切りぎりぎりになるのが悪いんじゃないですかー」
担当は悪びれもせずにせんべいをぱりんと噛み切る。
「それならそれで、ウチじゃなくても良くないですか?」
家主として真っ当なクレームを入れると、羊が頭を振る。
「こんなことをしてくるヒトとふたり?何があるわかったものじゃありません!」
納得、できてしまうことが最大の問題なんだよなぁ。
「そんなー。締め切りから遅れるたびにスネにガムテープ貼るだけですよぉ」
そりゃ羊が逃げてきますわ。
「担当!今日のお茶請けはなんですか!」
「けむじゃんの好きなイモ羊かん買って来たよー」
悪魔、諸手を上げる。簡単に買収される奴め。
「これでもちゃんとおやつ買ってくる私、偉くないですか?」
やってることが人間相手だったら偉いことだと思う。
「ちなみにトイレに行きたくなったらどうすればいいので?」
「あー、手でも上げれば良いんじゃないですか?」
羊、手を上げる。
「はい、早く書かないと漏らしますねぇ」
この担当、悪魔より悪魔ってるんですけど?
「トイレくらい行かせてあげなさいよ」
「だってー。トイレに引きこもられたら面倒じゃないですか」
「しません!逃げ場無いですし!」
羊は椅子の上で左右に揺れる。
「こう言ってるし。ウチで漏らされると面倒ですし」
「ニンゲン、あなたも大概ですー」
イモ羊かんを切り分けた悪魔があきれ顔で戻ってきた。
なんでよ?
「ここには魑魅魍魎しかいないのですか……」
羊は泣きながらタイプしている。
「ほらー羊さん、早く書かなきゃダメですー。読者は待ってるですー。今の羊さんに悪魔権は無いのですー」
コイツもコイツで大概だわ。
「自分の興味のために同族を売る……さすが悪魔、そこにしびれる憧れ……は、しないかなぁ」
担当が寸前で人間の領域に留まってくれて良かったです。
「ところで締め切りっていつなの?」
こんなに非人道的なことをしてるのだから、何日過ぎているのだろうか。
「え?あと3週間ありますけど」
……ん?聞き間違え?
悪魔はてこてこ歩いて羊の縄を解いた。
「羊さん、担当ってニンゲンよりヤバいんですね」
聞き捨てならん!!
羊がトイレに駆け込む。
なんか、じゃなくて事情聞かず、本当にごめんね。




