悪魔がウチにおりまして・513
ウチには悪魔がいる。
さっきから目をかゆかゆしている悪魔が。
「あーうー。花粉嫌ですー」
花粉症の悪魔、なんかやだな。
「かゆかゆ……あ、目が取れました」
そんなわけ無かろう。
「アホ言って無いの。充血しちゃってるね」
当然、目は無事だったが、掻いていた左目が赤くなってしまっている。
「ほら、お目目洗ってきなさい」
「あいー」
よほど痒かったのか、憎まれ口を叩くことなく洗面台に向かっていった。
「花粉症って大変ねぇ」
「ニンゲン殿は無事なのですか」
そこには目にゴーグルを付けた狐がこちらを見上げている。
「……狐ちゃんも目?」
「そうです。今年から急に」
嫌なデビューを迎えてしまったか。
「ミミ殿より某の毛は固いのです。掻いてちまったら、それはもうひどいことになりますので」
短くてちくちくしてるから大変なんだろうね。
「悪魔、ヒヅメヒヅメ」
「ニンゲン殿、ミミ殿のヒヅメはある程度固さを変えられるのです。それこそ皮膚程度になら簡単です」
今まで知らなかった衝撃の事実。
たぶん来週にはその体質は忘れられていることでしょう。
「ニンゲンー。目を洗ってもかゆかゆですー」
悪魔は右目を押さえながら戻ってくる。
「悪魔、逆」
「……し、知ってたです!そんなバカじゃないですー!」
痒みのせいでおつむも緩くなっているんだなぁ。
「ニンゲン殿は平気なのですか?」
「ヨーグルト食べてたら治った」
昔はそれはひどいものだっ……。
「ヨーグルト!?ニンゲン、その代物は合法ですか!?」
合法だよ、ただの乳製品だわ。
悪魔が転がりながら飛び込んで来た。
「それを目に塗れば、塗ればぁ!」
「たぶん染みるよ?」
ヨーグルトは食べるものです。
「ニンゲン!なぜそんな良いものを教えてくれなかったのですか!ボクが何か悪いこと……ヨーグルトはどこに売ってますか!」
おー、悪いことした自覚があるのは良い傾向です。
「コンビニでもスーパーでも売ってるよ」
「すぅーぷゎー!!!」
扉から飛び出して行き、そのまますごい音を立てて転がり落ちて行った。
「すぐ治るので?」
「そんなわけないでしょ」
狐もよほど辛いんだなぁ。




