悪魔がウチにおりまして・507
ウチには悪魔がいる。
麦わら帽子を被った悪魔が。
「ごんちゃん!お庭を使わせてください!」
麦わらだけじゃなかった。
軍手にスコップ、オーバーオールに長靴。
悪魔、やる気だな……家庭菜園を!
狐は読んでいた巻物をくるくる巻き取るとじろりと悪魔を見据えた。
「ミミ殿。何を育てるおつもりで?」
「えっと、つくしとタケノコ、ミントなどを……へぶっ!?」
狐はどこからかハリセンを取り出して下から悪魔のアゴに撃ち込んだ。
「某の庭を侵略させるわけにはいきません。ニンゲン殿!ミミ殿に塩を!」
「オリーブオイルでもいい?」
「それも良いでしょう」
自分で言っておいてなんだけど良いのか、狐。
「やめるですー!オリーブオイル頭に垂らすのはたぶん、こう、宗教的にボクがやってはいけない気がしますー!」
嫌がる点がセンシティブなのよ。
「で?ミミ殿、考えは改めまちたか?」
ハリセンをフルスイングしながら脅す狐。やめてあげなさい。
「な、何なら良いというのですか!?」
悪魔、そこより前に植物の知識ね?
寄りにも寄って1度植えたら詰むヤツを的確に選ぶなんて。
「呼びましたか」
天井が勢いよく開き、中からモグラが出てきた。
「いつから居たの?」
「今さっきです。クローゼットから回り道しました」
なぜ、そんな面倒なことを。
「それよりミミちゃん。農業に従事したいのですね、そうですね」
「違うですー。タケノコ食べたいだけですー」
「ならば、1度ボクの畑にいらっしゃい。農業の何たるかを教えてあげましょう」
なんか、今日みんな話聞かない周期なの?
「別に知らなくても……ぽんちゃん、離すです!?力、つよっ!?」
軽く手を引くように悪魔を連れ去っていった。
「……大丈夫かしら」
「ミミ殿にはいい薬かもちれません。ニンゲン殿、今日の夕飯はあっさりめで作ってあげてください」
……なんのこっちゃ?
その理由は悪魔が夜に帰って来れてわかった。
「……ニ、ニンゲ、ン。この、ご飯、重す、ぎます……」
ウチには悪魔がいる。
床に這いつくばり、冷ややっこすら食べられないほどに疲れている悪魔が。




