悪魔がウチにおりまして・501
ウチでは糸こんが歩いている。
誰か説明してほしい。
糸こん。糸こんにゃく。
よくおでんに入っているぐるっと巻かれたアレ。
それがリビングを歩ってるものだから2度見するのもしかたないというものだろう。
「悪魔ー、糸こん逃げてるー」
「あー、本当ですー」
キッチンから悪魔が駆け寄ってくる。
やはりお前のせいか、ブルータス。
「まったく。これから美味しく煮てやるですから、大人しくするです!」
煮るんだよね、それ。糸こんだもんね。
「なんか、前に喋るヨモギがあった気がするんだけど?」
「アレはアレ、コレはコレです。喋らない分罪悪感が無いでしょう?」
お前にもあったのか、罪悪感。
糸こんはどことなく照れたように頭をさすっている。
……私はバカなのか。
糸こんに!頭は!ない!
「それ、また魔界糸こんとか言うの?」
「ちっちっち。これは魔界結び白滝。実はこんにゃくに似た何かなのですー!」
動くという違和感最大値から目を背けないとだめ?
こんにゃくとも白滝とも認めたくないんだけど。
「ちなみにコレの調理方法はまず神経を切って動きを止めます」
神経、あるんだぁ。やだなぁ。
なぜか糸こん、背中を向けてココ!ココ!とばかりに指を……無い、指は無いんだってば。
「そこに神経あるの?」
「ですです。開発者の賜物で、自ら調理方法を指し示して手ほどきしてくれます。初心者のお友だちです」
そのお友だち食べるんでしょ?
「春にプランターに植えるとすくすく育って夏には食べられるのです。その子を思い思いに調理して頂く……食育の一環でもあります」
トラウマ必至だろ、それ。
「さぁ!ニンゲン!このバターナイフでズバッと!この子を苦しませないように!」
それならもうちょい切れ味ある物渡してくれ。
悪魔に渡されたバターナイフを背中に押し付けて力を入れる。
「……タノシカッタ」
「トラウマ植え付けるな!」
刃を入れた糸こん?白滝?はぱっくり割れて、中からサバが……サイズを考えて欲しい。
「おー、今夜はサバみそですかー」
「説明を。回答次第では逆さに吊るさなければなりません」
「中から出てきたものを調理するのが課題として組まれていて……ほら、まだこの子は生きてます」
よく見ると脇で半分になった糸こんが説明書を持っていた。
今夜はサバみそwith糸こん。
言われた通りに作ったら本当に美味しいから困るのよ。




