悪魔がウチにおりまして・497
ウチには狐がいる。
ひたすらにチョコを食べ続けてる狐が。
「ごんちゃん、大丈夫ですか?鼻血出ませんか?」
悪魔の心配がズレている気がしないでもないが、さっきからどれだけ食べているのかわからない。
狐は悪魔と違い、律儀に包み紙や箱を捨てに行っているのでゴミを散らかさないのは良いけれど。
「ミミ殿、良いのです。鼻血、結構ではありませんか。まさに出血大サービスというものです」
リアルに血を出すのはサービスにならないのよ。
しかし、狐がここまで黙々とチョコだけを食べるのは不思議でしかない。
「狐ちゃん、いくら何でも食べすぎじゃない?どこから持ってきたの、そのチョコ」
悪魔と違ってわざわざ買ってきているわけじゃないでしょう?
「……他者からの施ちは、無駄にちてはいけないと育っております」
施し?チョコ……まさか。
「ごんちゃん、もしかしてそれってもらったですか?バレンタインのですか?」
口の周りを茶色に染めた狐が頷く。
「ボクに寄越すですー!チョコならいくらでも食べてあげるですー!」
悪魔、目の色を変えて狐に飛びつく。
まるで飛び蹴りのような悪魔の突撃をくるんと転がしてその場に組み伏せる。
「これは某が頂いたもの。いわば心を頂いたのです。それを肩代わりなどできません、させません」
狐、目がマジ。
「某の血がすべて鼻に集まろうとも、このチョコは責務です」
「にしても、そんなに食べる必要ある?チョコって賞味期限長いよ?」
こんな勢いで食べなくても、腐ることは……。
「13,527個」
狐が板チョコをパリパリしながらポツリとこぼす。
「……ごんちゃん、なんて?」
「13,527個です。某に振る舞われたチョコの数です」
なんでそんなに多いのよ!?
「ごんちゃ……モテモテです?」
「今、恋愛運関係のお仕事を担当ちてます。あくまでも、サポートなんですよ」
「つまり、供物的な?」
「ニンゲン殿、ちばらく夕飯は塩味を利かせたものが嬉ちいです」
ウチには狐がいる。
「ゴメン、今夜大学芋だわ」
「……甘いの、つらい」
泣きながらチョコを食べる狐が。




