悪魔がウチにおりまして・5
ウチには悪魔がいる。
なんの動物に似ているのか、形容しがたい悪魔が。
「全く…やってられない」
今日はいきなり半休を上司に告げられ、まだ2時だというのに帰らされた。
福利厚生のためと言われたものの、事前に伝えられていれば有意義な午後を過ごせたかも知れないが、当日の朝に知ったのでは予定など組めるわけもない。
普段一緒に過ごしている悪魔のほうがよほど人間味があるではないか。
どうせなら久しぶりに手の込んだ料理でも作るとしよう。
あの子、肉が好きと言っていたしビーフシチューを作るか。
駅近のスーパーで材料を見繕う。
カレー用の牛ブロックが特売、もはや悪魔の思し召しだろう。
シチューの材料を揃え、フランスパン、ワインを買って家に帰る。
明日は休みだ、多少深酒をしても問題ない。
「ただいまー…誰?」
家に帰ると誰かが居た。
悪魔と、それと同じくらいの大きさの…羊?
明らかに2体の生き物は動揺している。
「は、早かったですね!たくさん何を買って来たんですか?」
「半休だったの。で、誰」
明らかに話題を逸らそうとする悪魔。
こんな図体のでかい羊をウチに入れておいて、話さないでおこうだなんて良い了見している。
「えっとー、えっとー…」
「ヤギ―!」
「ヤギです!」
「ヤギはそう鳴かねぇ」
これも悪魔か。分かっていたことだがまた悪魔が増えたことにげんなりと肩を落とした。
「私、こういうものです」
羊から名刺を手渡された人間は他に居ないのではないだろうか。
ご丁寧に「偶蹄目・ウシ科 ヤギ」と書かれていた。
しかしどう見ても羊である。
「ウチの者がお世話になっております」
「ウチの…者」
羊から悪魔に視線を移す。
心なしか悪魔の背筋がしゃんと伸びている。
「ねぇ、悪魔。この羊何者?」
「私、ヤギと申します」
まだ言うか。
「ええと、ヤギさん?あなたに聞いてない。人の話の間に入らないってマナー、知りませんか?」
「私はヒトではなくヤギですので」
「ならヤギさん。あなたはなんでここに居るんですか。ここ私のウチなんですけど」
敵意を隠さずに言うとヤギは咳ばらいをして答える。
「実はこの子を連れて帰ろうと思いまして」
…はい?