悪魔がウチにおりまして・44
ウチには悪魔がいる。
これは比喩表現です。
お姉が玄関に現れると羊が畳の中に飛び込もうと突進する。
羊が進む先にお姉が鎖を投げて、羊が急ブレーキをかけて止まろうとする。
しかし急には止まり切れず角先が触れた瞬間しゅるしゅると巻き付いてがんじがらめに。
本来畳の中に入れるはずだった羊は畳にぶち当たり、鼻血を出した。
この間、わずか4秒。
もはや目で追うことがギリギリである。
「ニンゲン!なぜ!この化け物を!」
「こら、悪魔ー?自分の今の状況わかってる?」
「この外道をなぜ呼びましたか!」
「一応頼るでしょ、一番信頼できるんだから」
「メノー。愛してるって言って…」
「言いません」
いや状況ではふざけている場合じゃないんですけどね。
はい、状況説明終了。
「ニンゲン?ふざけてます?」
羊は鎖に繋がれたまま話している。
お姉、解かないの?
「ふざけてないよ、昨日からずっと見えてるんだから」
現在も目の前でふわふわ飛んでいるウーパールーパーと目が合った。
手を振っている。
振り返してみると嬉しそうにくるくる回っている。
「ほら、外道。あなたも言ってあげなさい」
鎖で繋がれていても上から目線を崩さない羊。
なんでそんな強気なのだろう。
「え?見えないの?今アンタの頭引っ張っているけど?」
お姉がそういうと、確かにうぱは羊の頭に乗って毛をぐいぐい引っ張っている。
「…お姉、見える?やっぱり居るよね?」
「ニンゲンと外道が結託して貶めようと!?」
羊は顔を真っ青にして首を振る。
頭の毛を掴んでいるうぱはぶんぶん振り回されて楽しそうだ。
「しっかしメノ、とんでもないモノに好かれたねー」
お姉はにやにやしながら立ち上がる。
「ちょっとお姉、この子の正体教えてくれないの?」
「自分で気付かないと。せっかくの祝福だよ。ね?妹好いてくれてありがとね」
お姉の言葉に胸をポンっと叩くうぱ。
…任せとけ、かな?
「騙されてはいけません、そんな存在などいるわけがないのです」
「そうは言っても、2人とも見えちゃったからね」
「それが勘違いということもあるのです。ところでニンゲン。この鎖解けますか?」
お姉は鎖を回収していかなかった。
ウチに羊がいる。
帰りたくても帰れない、哀れな羊が。




