悪魔がウチにおりまして・441
ウチには悪魔がいる。
大がかりな工事をしている悪魔が。
「おーらいー、おーらいー。すとーっぷ!」
朝もはよからクレーンを引っ提げ、悪魔は庭で何かを吊るしている。
年の瀬なのに何やってんのよ。
「また変なことやってると狐ちゃんに叱られるわよ?」
「今日は大丈夫なのです!なぜなら!」
悪魔が勿体ぶって言う後ろから狐が出てくる。
「ちゃんと許可を取ったんです。絶対に明日雨です」
失礼なんだか妥当なんだかわからないことを言ってる。
「ごんちゃん、話聞いたときにぐーぱんしたのです。最後まで聞いてほしいのです」
こっそりと教えてくれたんだけど、狐コイツのせいで徐々に短気になってない?
「で、コレは何してるのよ」
「鐘を造ってますー」
……耳が理解を拒否したんだけど?
「実はですねぇ……」
悪魔が話し始めようとしたときにクモが横から飛び出して来た。
「クモちゃん!火傷しちゃうです!」
クモがえらく身体を低くしている。
もしかして、鐘を造ろうとしているのって、クモ?
「なんか知り合いの仏さまから頼まれちゃったんですって」
……もう年の瀬なのに鐘の無いお寺って。
「それでは、鋳造!」
悪魔が手を振ると間の抜けた「あいー」という声。
……牛!?アンタクレーンの免許持ってんの!?
クレーンのアームはでっかい窯を傾け、用意された溝に溶けた金属を流していく。
溝を進むにつれて花火が吹き上がる。
「お前!?」
「だって、ただ流れていくのってつまらないじゃないですかー」
その感性は要らないのよ。
そうか、それで昨日鉄を貰ってたの……あれ?
思うところがあり、スマホで調べものをする。
そうしている間にも溶けた金属は地面に吸い込まれて行って、規定量流したようだ。
「ふいー、仕事のあとの一服はたまりません」
牛、相変わらずシガレットはココア派のようです。
「昨日、鉄が5トン来たときは何事かと思いまちたが。鐘を造るなら……」
「狐ちゃん、これちょっと見て」
何かを察したのか、悪魔が飛びついてくるのをひらりと躱す。
そのまま窯にホールインワンしていった。
「ニンゲン殿なんですか?『鐘の材料。スズ・銅の合金』……鉄は」
そうなのだ。鐘に鉄は使わない。
つまり昨日の5トンは使っていないのだ。
窯の中には悪魔がいる。
「だしてー、だしてー」
「そこでしばらく反省ちてください」
どうすんの、この鉄は。




