悪魔がウチにおりまして・431
ウチにはしゃけがある。
太くて立派なしゃけが。
家に帰るとテーブルの上にぽんと置かれていたしゃけ。
胴体に「あらまきじゃけ」と書かれていて、もう年の瀬ということをしみじみ感じてしまうことなのですが。
「しゃけね」
「しゃけですね」
びちびちびち。
「アンタにも見える?」
「ニンゲンに見えているならちゃんとあるんですね」
びちびちびち。
現実的に受け入れ難い光景なのは一旦スルーしよう。
「アンタお茶漬けハマってなかったっけ?」
「そんなことよりニンゲン、違和感を無視しないでください」
せっかく日常に居座ろうとしたのに無粋な悪魔ですこと。
「まったく……新巻鮭は!新年の挨拶です!」
「そこじゃねぇよ」
手に持っていたエコバッグを悪魔の頭の上に下ろす。
ぼごんという鈍い音がした気がしますが気のせいでしょう。
「ニンゲン!?その袋、水ですよね!?凶器ですよ!」
そうだ、2リットルの水3本買ったんだった。
「そんなことより、見なさい。しゃけが荒ぶってるでしょ」
「塩漬けにされているのにびちびち動くモノをしゃけとは認めません!」
言っちゃったよ、こやつ。
そう、さっきからテーブルの上で跳ねているしゃけをどうしたものかと眺めていたのだ。
「アンタ、ちょっと切って食べてみたら?新巻鮭って生でもいけるわよね?」
「ナンッセンスっ!」
ムカつくな、そのリアクション。
「良いですか、ニンゲン。動くモノを口に含んだら急所を晒すようなものです。戦闘では命とりですよ!」
リビングだ、戦闘中じゃないんだよ。
「ホタルイカの踊り食いとかあるじゃない」
「あれは寄生虫の心配があるから止めたほうが良いです。虫、怖い」
そうなの!?
「今度富山に行ってみようと思っていたのに……」
「これからの時期寒いから止めましょ?」
びちびちびち。
そういえばコイツ寒いの苦手だったわね。
その時、クモが上から降りてきた。
「あれ、帰ってたの?」
クモは跳ねているしゃけに足を指している。
「もしかしてクモちゃんのお土産ですか?」
悪魔の言葉に満面の笑みで両足を上げた。
「……クモちゃん、気持ちはありがたいのですが……」
ウチにはしゃけがある。
動き続ける荒巻鮭……あ、クモが仕留めた。




