悪魔がウチにおりまして・430
ウチには悪魔がいる。
大いびきを掻いている悪魔が。
「起きませんね」
狐が悪魔の額を連打しているが、全く起きる気配がない。
「狐ちゃん、そんなハンコを押すみたいに突かなくても」
まるで親の仇を穿つ如く額に肉球を連打する。
「先ほどからすぬーずがうるさいのです。止めてもらわねば」
あー、そっかパスワード知らないから鳴りっぱなしなのね。
しかも1分ごとになるようにしてやがる。
そんな大切なことでもあるのかしら?
「ニンゲン殿、いっそす巻きに。そのまま湾に」
いきなり物騒すぎるでしょ?
「ナンコツ!?……夢ですか」
ゴメン、なんの夢見てた?
「ミミ殿先ほどからすまほがずーーーーーーーーーーーーーっと鳴ってます」
長い、怖いよ狐。
「…………あ」
いきなり悪魔が大粒の涙を流してフリーズ。
「悪魔、どしたの?」
「……配信!見逃してしまいました……」
すぐにスマホで動画アプリを起動。けたたましい音と歌が聞こえる。
近くに居た狐は背筋ピーンして前後に揺れている。
そうよね、うるさかったよね。
「みぃぃぃぃ!これ、何曲目ですー!?ごんちゃん!わかりますか!?」
固まった狐の肩をゆさゆさしているんだけど、後頭部に血管浮かんできてるからそろそろやめな?
「ミミちゃん、正座。すまほも閉じる」
あ、キレた。
さすが友だち、狐がキレたことを察するや否や、速攻で正座して耳にBluetoothイヤホンを……付けるな、しまえ。
「ミミちゃん、片耳は許しましょう。あとあと面倒になりそうなので」
狐が本気で切れると滑舌が整うの、面白いよね。
「釈明を。ことと次第では家宝の油揚を抜かねばなりません」
真剣そうなのでツッコミは保留。
「大好きなVTuberの生誕ライブでした」
涙ぐみながら素直に答える悪魔。
「よろしいニンゲン殿、介錯の準備を」
「嫌だよ?」
絶対血で汚れるじゃない。
「ニンゲン……助けてくれるのですか?」
「狐ちゃんもここが事故物件になっても良いの?」
狐はアゴに手をやって考え込む。
「それか嫌ですね。ミミちゃん、今回は不問とちます。さよう、津田沼家のみたらち団子で手を打ちましょう」
「……1本300円します」
「ニンゲン殿、羊殿、兎田殿の分も必要でしょう」
ウチには悪魔がいる。
泣きながらライブを見ている悪魔が。




