悪魔がウチにおりまして・429
ウチには悪魔がいる。
今日は穏やかなトラブルです。
「ニンゲン、お茶漬けが食べたいのです」
お昼ご飯を食べた直後にそんなことを言ってくる悪魔。
「ならさっき言えば良いじゃない」
お腹がいっぱいであろうタイミングでよくそんなこと思えるものだと感心してしまう。
「だってー、おウチにあるお茶じゃないお茶漬けを食べたいのです」
お茶じゃないお茶漬け?
「コーラとか?」
「……ニンゲン、時々その発想やべえって思うのです」
コイツからこのような目を向けられるとは屈辱の至り。
「ちゃんとお茶です、具体的にはお茶っ葉で煎れたお茶が良いのです」
ワガママな。
「話は聞きました」
クローゼットがバタンと開きモグラが見えて、そのまま手で押して閉じるとゴンっという鈍い音が響いた。
「ニンゲン?」
「いや、つい閉めちゃった」
ゆっくりクローゼットを開けると頭を押さえてうずくまっているモグラが居た。
「ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない」
再び閉めようとすると悪魔がガっと止めた。
「ニンゲン、それやるとあとあとやべぇです」
悪魔の青ざめた顔、そしてモグラに話しかけにいく。
「おやぁ?ぽんちゃんじゃないですかぁ?ボクはいま、美味しいお茶漬けを食べたいのですー、誰にも真似できないお茶を用意してくれる、とってもすごい知り合いを探しているのですー!」
わざとらしい悪魔の言葉にモグラの顔がみるみる晴れていき、普段のすまし顔に戻る。
「そんなミミちゃんに朗報です。銘茶『サイレント・ヘル』がここに」
その名前、怖いよ。
「おおー!それは美味しいお茶漬けができるに決まってますー!」
悪魔が肘で突いてくる。
「そうねぇ、美味しいに決まってるわよねぇ!」
なんなんだ、この茶番。
「仕方ないのです、今日は特別に分けてあげるのです。ボクも一緒に食べさせてくれますね?実は、まだご飯を食べていなくて」
『……え?』
ウチら、さっきお昼食べたばかりなんですけど。
「……帰るぅ」
モグラが目を潤めながらクローゼットに戻り始める。
「いやー!ちょうどお腹減ってたですぅ!ニンゲンもそうですよね!ね!」
「そ、そうね!美味しいお茶漬け食べられるなんて嬉しいなぁ!」
再びモグラの顔が晴れるのだった。
ウチではお茶漬けが並ぶ。
……美味しいよ?お腹減ってるときに食べたかったなぁ。




