悪魔がウチにおりまして・422
ウチには悪魔がいる。
性別不明の悪魔が。
「ニンゲン!温泉に行きたいのです!」
悪魔は手に風呂桶、中にはアヒルを持って頭には手ぬぐいのフルセットである。
「行くのは別にいいけど……どこまで行くの?」
温泉って遠いのよね。
「この前箱根がいいと聞きました!海賊船で海を渡ることもできるそうですよ!」
それ湖ね。山の中だし。
「休みとって行くのはいいけど、みんなで入れないわよ?」
「ほわい?」
だってみんなの人間姿、悪魔は地雷子(女)羊はチャラホスト風(男)牛はおっさん(男)でしょ?
「ニンゲン殿!某はどちらでしょう!?」
「狐ちゃんはそもそも入れない気がする。寄生虫いるって思われそう」
エキノコックス、怖いから。
「某には寄生虫などいません!ていうか、住む世界違うのに寄生なんてちないでしょう!?」
私が言ってるんじゃなくてだね。
「ニンゲンさん、お風呂は一緒に入れないのですか?妻と露天風呂というものに入ってみたいのですが」
羊がお盆ととっくりをリュックに入れながらちらりとこちらを見ている。
「アンタたちの場合夫婦で貸し切りとかできると思うけども」
「ニンゲン、なんでボクたちは一緒のお風呂に入れないのですか?ニンゲンの世界はそうやって差別するのですか?」
今の世の中にややこしい話になる言い方はやめなさい。
「某も温泉、入りたいのです……」
狐、上目遣いで見るんじゃない。
「ペットOKの温泉ってなかなか無いからなぁ」
その言葉にがっくりと項垂れる皆の衆。
「はこーね、おんせーん……」
「ミミ君!諦めてはなりません!すーちゃんに温泉誘ってるのです!ここで行けませんなんて言ったらお小遣い減らされてしまいます!」
アンタ小遣い制だったのかい。
「ここは究極の手段、閻ちゃんに電話を……」
「するな!」
温泉入りたいってだけで地獄の王の厄介をかけるな!
「ニンゲンー……温泉ー……」
「悪魔、世の中にはね、どうしようもないことがあるんだよ」
私は引き出しに入っていた入浴剤を渡す。
そこには「草津の湯」と書かれていた。
「これでガマンなさい」
「あい」
ウチには悪魔がいる。
濁ったお湯で、悲しく歌っている悪魔が。




