悪魔がウチにおりまして・418
ウチには悪魔がいる。
ベランダで空を見上げている悪魔が。
「悪魔、寒くないの?」
寒がりのコイツがこんな時期の夜にベランダに居るので少し心配になる。
「ざぶいでず」
鼻声の返事、なぜ居るのか。
「それなら入って来なさい」
「でもー、なんか今日の空がきれいなのでー」
たまに入るロマンチックモードですか。
「ミミ殿、そのままでは風邪を引いてちまいます」
狐が足元で七輪を運んできた。
「ごんちゃんー。……空っぽ?」
悪魔が両手を上げるが中身を見て信じられないものを見るように狐を見る。
「中身を入れて運ぶと火傷ちます。ちゃんと炭を焚いているので少々お待ちを」
狐はそのままキッチンに向かって鍋に焚いた炭を入れて戻ってくる。
「あたたかーい……」
七輪に炭が入ると手をかざして息を吐く。
「ミミ殿、これだけじゃありません」
狐は七輪に網を張ると、上に水を入れた鍋を置いて、その中にとっくりを入れる。
「ごんちゃん、それはいけません、犯罪です」
「中身は我が家からはいしゃ……持ってきた『女狐』です」
コイツも染まってきたなぁ。
「ごんちゃん、ダメです……そこまでするなら……」
悪魔はよだれを垂らしているものの、狐に対しては不満げである。
「ほほう?そんなことを言って良いのですか?」
狐はあたりめを取り出すと、鍋の脇にちぎって乗せる。
「あぁ、ごんちゃんは悪い狐です。堕落です」
悪魔の口ダム、決壊。
汚したベランダはあとで掃除するように。
「ニンゲンもお空見ますか?」
七輪ガン見しながら言うんじゃない。
クモが寒がって睨んでいるので私も外に出て七輪で暖を取る。
雲ひとつない空、月は半分、澄み渡る空にちりばめられた星。
「ごんちゃん、そろそろいい香りがします」
色気より食い気になっている気がしないでもないが、確かに香ばしい匂いが立ち込める。
「今お燗もちょうどいいでしょう」
ミトンを付けた狐はとっくりを湯から引き揚げおちょこに注いでいく。
「今年もいい年でしたねぇ」
「早い、早い」
悪魔のボケにちゃんとツッコミを入れてあげるのは空がきれいだからとしておきましょう。
この穏やかな時が、いつまでも続きますように……なんか臭い?
「ごんちゃん!?火事です!?」
「ミミちゃん!?口開けて!!」
狐は燃えたイカを悪魔の口に投げ込むのでした。




