狐が修行をちてまして
某はごんのすけ。
ニンゲンの世界に修行をちている者です。
なぜこのようなことになったかは話せば長くなるのです。
実はかか様に命じられまちた。
「それじゃ狐ちゃん、行ってくるからね」
宿主殿が出かけていきまちた。
某としてはねね様とお呼びちたいのですが、姉ではないからと止められております。
かか様に認められた、ねね様ですのに。
ちて。
某だけになりまちた。
これからは修行の時間なのです。
かか様からは「お前が人のためになると思うことを行なうこと」が修行と仰せつかっておりますが、なにぶん某はニンゲン界のことを知りませぬ。
今日のお掃除を終えると、クモ殿が下りて参りまちた。
クモ殿は仏門に帰依されている、某とは違う身分なれど修行の御身であります。
内緒にちたかったご様子でちたので無礼をちてしまいました。
「クモ殿。修行とは何をすればよろちいでしょうか?」
お尋ねすると、クモ殿は脚を組んで考えてくれております。
お応えを待って正座ちて…正座…クモ殿、お早く…。
「く、クモ殿?」
あまりに長く悩んでいらっしゃるご様子。
失礼を承知でお尋ねすると首をカクンと落とちました。
お眠りになられておりまちた。
ご自身がお作りになられた羽織をおかけちて、1人で考えることにちましょう。
こんな時にかか様でちたらなんと申されますでしょうか。
「権之助。あなたはあなたの精一杯でいいのですよ」
頭の中のかか様は優ちくおっしゃってくれますが、何も糸口がみえませぬ…。
こんな時は座禅を組みましょう。
クモ殿がお眠りになられているので静かな修行がよいでしょう。
あぐらは組めないので三角座りです。
すってー、はいてー、すってー、はいてー、すってー…。
「ただいまー。…あれま」
ニンゲンが帰ると、クモの横でぐっすり寝ている権之助の姿があった。
クモの糸で織られた羽織を2人でかけて、すうすうと寝息を立てている。
ニンゲンは起こさないように静かに夕飯の準備を始めるのだった。




