悪魔がウチにおりまして・402
ウチに来訪者が来た。
……初めまして、だよね?
チャイムを鳴らして尋ねてくる常識人がウチに来るなんて異常事態に違いない。
「どちら様でしょう?」
「こちら、日田つづじさんのお宅ではないでしょうか……?」
真面目にダレ?
「すみません、私こういう者でして……」
さすがに不審に思った雰囲気が出てしまったのか、少し慌てながら名刺を差し出してくる。
「澄田出版編集・溝口カエデ」と書かれて……編集?
「ニンゲン、日田つつじって羊さんです」
悪魔、この瞬間に地雷子に変身した手際は誉めて差し上げましょう。
つまり、この人は羊の担当さんってこと?
「あー、お隣だったんですねぇ」
悪魔の提案で担当さん……担当さんをリビングに通してお茶を出す。
「あのっあのっ今後どんな小説になるんですかっ」
キラキラした目の地雷子ちゃんが担当さんに詰め寄っている。
そういえばコイツ羊の小説のファンだったね。
「それは公表できなくて。なんなら彼は基本的に書き下ろしなので」
羊、そんなノリで仕事してたのか。シンパシー。
ただ、以前羊は担当とウマが合わないってクダ巻いてなかった?
しかし目の前にいるのは穏やかそうな女性。ふーむ?
「あの溝口さんはキャラが死んでしまうことってどう思って……」
私の言葉の途中で目が死んでいき、大きくため息を吐く。
「……あぁ、日田さんから前任のお話聞いているんですね」
「担当!黄泉の蓋を開いたような目になってます!」
悪魔、その呼び方はやめなさい。
「その前任、今も殺しまくってるです?」
物々しい質問はやめなさい。
「いえ……彼はもう辞めまして。無理ですよ……いきなり人気作家の担当だなんて……」
「ニンゲン!ここら辺ジメジメしてきました!」
本当にやめろ!?
「良いんです……そも無理な話ですよぉ……プロットも書いてくれない人気作家の担当なんてベテランの仕事でしょう……時々電波繋がらないし……私嫌われてるのかなぁ……」
たぶんだけど、羊があっちに居て神ちゃんとよろしくしてる時なんだろうな。
「ニンゲン、ちなみに夫婦喧嘩は135戦134敗、神ちゃんの圧勝です」
その1勝が気になるな。
「ふぃい、酢豚にパイナップルはいけませんよぉ」
間抜けな敗戦理由をこぼしながら羊が玄関から入ってくる。
うん、羊の姿でね。
「おや、溝口さん。いかがしました?」
「なんですか、この着ぐるみ」
……知ーらない。
ウチには羊がいる。
失言に気付いて、毛まで真っ青になっている羊が。




