悪魔がウチにおりまして・39
嵐は唐突に表れる。
そう、忘れたころに、ね。
割と遅い夜、ドアがリズミカルに叩かれる。
ずいぶん前倒しのリズムを考えるとノックの主はずいぶんとご機嫌のようである。
「どちらさ」
「メノー、お姉ちゃんですよー」
ドアを開けるなりいきなり抱き着いてきたのはコハクお姉だった。
うっ、酒臭い…。
「あらぁ、悪魔ちゃんじゃないのー、久しぶりー」
フリーズしていた悪魔をそのまま抱きかかえながら頬ずりしているところを見るとかなりご機嫌な様子である。
「にににににに!ニンゲン!!助けるのです!!!!!」
おぉ、悪魔パニくっとるなー。
「えー。何から助けて欲しいの?お姉ちゃんに任せなさい」
「あなたです!何なんですか、この前との落差は!」
珍しい、悪魔がキレてる。
「お姉、昔からお酒弱くてねー。具体的に言うと誰でもハグするようになる」
「誰でもはひどいにゃー。可愛い子だけだよー」
すっかり魂の抜けた悪魔をそっと座布団の上に寝かせると、視界に入ったクモをロックオン。
8つ脚を可愛い認定するとはお姉もツワモノだなぁ。
逃げる間もなくクモが捕獲されて胴体に顔をうずめている。
「あー。この子ふわふわー。気持ちいいー…」
クモは助けて欲しいのか前脚をちょいちょいこっちに手招きのように振っている。
無理なの分かるでしょ?
「ミミ殿、ご無事ですかー!」
狐は空気読む修行が必要だね。今声なんか出したら…。
「あらぁ?この前には居なかったわねぇ?」
「みぎゃあああ!?」
舌なめずりしながら近づいたお姉は狐のしっぽを思いっきり吸っている。
「アレ?あの羊は居ないの?」
死屍累々。
ひとしきりケモノたちを堪能した後きょろきょろと見まわしているときに着信音。
「…はい。ええ、極東地区に居ます。え?悪魔が自然発生した?直ちに現場に。はい、30分で着きます。では…ふう、じゃあね?悪さしてたら退治しちゃうぞ」
ウインクしながら颯爽と立ち去るお姉。
…芝居だな、ただの監視と趣味だ…。
「やっと居なくなりましたか。怖いですねぇ」
ひょっこり畳から顔を出した羊に、今まで狙って出てきていたのだな、と知るのだった。
ウチには悪魔がいる。
吸われ過ぎてビクビクと痙攣している悪魔が。




