悪魔がウチにおりまして・395
ウチには悪魔がいる。
少々文化に疎い悪魔が。
「ニンゲン!イチゴさんに会いたいのです!」
誰だ、それは。
「この時期になると颯爽と現れ、チトセ・ブレイドで悪をばっさばっさと……」
「それ、七五三のこと?」
悪魔はアゴに手を当てて天井を眺めている。
「シチゴーさん?誰です?」
「季節のものだから人じゃないよ?」
「…………えっ?」
たっぷり間を使ったなぁ。
「ヒーローじゃ、ないの?」
泣くなよぉ。
「だって、だって……サイン欲しかった……チトセ・ブレイド、欲しかった……」
「たぶんあるわよ、それ」
千歳飴でしょ?この時期ならスーパーに売ってるわ。
「なんで?」
涙が引っ込む悪魔。
便利な身体してるわね。
「そもそも飴だよ、剣じゃないよ。無病息災を願うの」
「この国の文化、分からないです……なんで飴で病気避けれるですか?その飴は魔法でも使うですか?」
知らないわよ、昔の人が考えることなんて。
スマホを見ながら由来を調べてみると、飴屋さんが売り始めたことが起源らしい。
「……要するに金稼ぎですか!」
おぉ!?悪魔が荒ぶった。
「ダメなのです、ヒーローがお金のために戦っては!勇者がずっとお金をたくさん落とすモンスターばかりを倒してて世界は平和になりますか?経済は破綻しませんか?」
「真面目だねぇ、悪魔コーヒー煎れたけど飲む?」
悪魔は万歳をしてマグカップを受け取った。
「……じゃなくて!ニンゲン!ホンモノのチトセ・ブレイドを手に入れる旅に出るです!止めないでください!」
マグカップに入ったコーヒーを一気飲み。
悪魔は玄関から飛び出して行くのだった。
「ミミ殿が階段から落ちて行きまちたが」
帰ってきた狐。眉をひそめて外を眺めている。
「怪我してそう?」
「全く。そのまま走って行きまちた」
なら放っておきましょう。
「どうせすぐ帰ってくるでしょ」
ウチには悪魔が帰ってきた。
「本当にスーパーで売ってました……無念です」
おい、焼き芋食べながら落ち込むんじゃないよ。




