悪魔がウチにおりまして・394
ウチには悪魔がいる。
「ニンゲンさん、今日は焼肉にしましょう」
……正気なのか?
悪魔がその提案をしてきたなら別にその代金を請求するだけなのですが(差別です!)(黙れ、居候)その案を出してきたのはなんと牛。
「共食い……」
「あの、別に牛の姿は本体じゃないんですが」
牛はそんなことを言いながら、手に持ったエコバックからあるものを取り出す。
「もちろん、タダでとは言いません」
「こ、これは!」
悪魔が目を輝かせるのも無理はない。
赤と白の入り混じったグラデーション。
厚みがあり、食べ応えのありそうな……。
「マグロです」
「うん、マグロよね?」
まぁ、脂の乗った大トロなのは見ただけでわかるから、取引として間違ってないんだけど。
「牛さん、おバカですか!?大トロを焼いてしまったら口の中でとろける脂を楽しめないじゃないですか!」
悪魔の口の悪さはさておき、焼肉を要求してきてマグロ持ってくるのは確かにセンスがない。
「浅はか……。浅はかだなぁ、ミミ君は」
牛の後ろになんか変な作業着を着たおっさんが見えるんだけど?
「焼肉で脂っこい肉を食べると口の中がどうしてもしつこくなる。どうしてもさっぱりさせるためにインターバルを挟む。そのあとにまた肉を食べても良い……良いのだが、途中に魚の低温で溶ける脂を挟みつつ米と一緒に食す……そのことでまた口の中がすっきりと……」
悪魔が口元によだれを溜めて雫になりそうである。
「ウーロン茶で良くない?」
「ニンゲンさん、空気読んでください」
えー、私が悪いのー?
「……はっ!危うくお魚食べて頭が良くなるところでした!」
懐かしいし、頭良くなって欲しいものである。
「というわけでニンゲンさん、このマグロを差し上げますので肉を、我に香ばしい肉を!」
牛がこんなワガママ言うの珍しいな。
「別に焼肉するならするで良いんだけど。今日はなんでそんなにこだわるわけ?」
マグロは冷蔵庫にそのまま持っていくとして。
「えー、時々ありません?どうしても肉の食べたいとき。ほら今日29日、肉の日ですし」
微塵もかすってないんだわ。
「ニンゲンー、焼肉ー焼肉ー」
しまった!悪魔が焼肉スイッチ入りやがった!
というわけで今日の晩御飯は焼肉になりました。
「いやぁ、人の家で食べる焼肉は美味しいですねぇ。部屋も臭くなりませんし」
この牛!それが狙いか!




