悪魔がウチにおりまして・384
ウチには狐がいる。
月を見上げている狐が。
「狐ちゃん、どうしたの?」
ベランダを開けると満月を見上げている狐が室外機の上にちょこんと座っている。
「月がキレイでちて」
答えになっているようでなってないのだけど。
一旦部屋に戻り、電子レンジで牛乳を温め狐に渡してみる。
くぴりと飲んだ狐が眉をひそめる。
「熱いのです」
「温めたからね」
「砂糖はありますか?」
「自分でどうぞ」
狐は眉間のシワを深くして部屋に戻る。
しばらくしたのち、再び室外機の上に上る。
「甘いのです」
「自分で砂糖入れたんでしょ」
やはり狐らしからぬ行動が気になる。
「どうしたの」
「かか様に会いたいのです」
ぽろりと狐が溢す。
そういえば最近この子あっちに帰っている様子がない。
「帰って会ってくれば?」
狐は静かに首を振った。
「帰ってはいけないのです。3本の課題でちて」
3本の……しっぽ?
「3本は独り立ちの準備とちて、親元を離れて4本まで成長ちないといけないのです」
狐の世界もなかなか厳しい。
「3本結果の後にかか様と一緒にご飯を食べて以来会ってません」
「4本になっちゃえばいいのに」
その言葉に眉間のシワでコインが掴めそうなほど深まる。
その表情は狐としてどうなの?
「4本になるほどまだ成長ちてません。大変なのです」
まぁ、寂しくなってひとり月を見てるならまだまだなんだろうね。
「大人になるのは大変です」
「いつの間にかなってるものよ」
狐はミルクをふーふーしながらこちらを見ている。
「ニンゲン殿のご両親は?」
「知らないのよね」
物心ついたときからお姉とふたり暮らしだったことを狐に伝えると眉が緩んでいく。
「ニンゲン殿もご苦労されたんですね」
「お姉がいなくなる時、今の狐ちゃんと同じだったかもね」
ゆっくりと撫でると、「みぃ」と鳴いた。
月がキレイだ。
下に居る狐は見えてないからね。




