悪魔がウチにおりまして・37
ウチにはネコがいる。
どうやって追い出したものかしら。
保健所職員を呼ぶことはしなかった。
羊から「もし職員が来たら真っ先に連れていかれるのは自分」という主張に納得したからだった。
いや、今から呼んで共々引き取ってもらうのも全然アリなんだけど。
「さて、キミ、お茶くらい振舞ってくれないか?」
エッラそうにネコが羊に指示を出す。
「自分で煎れたらどうです?どうせ冷まさなきゃ飲めないんだから、ガスの無駄です」
羊はその辺にあったペットボトルを放り投げる。
その水、ウチのですけどね?
「相変わらず君たちは邪険にする。上司に言いつけてやろうか?」
「さっき会ってきてあしらわれているのに?話なんか聞いてもらえるとでも…」
「待って、あの歯医者、アンタの上司?」
割と聞き捨てならない言葉に思わず口を挟んでしまう。
「そうだよ、さっき会った堕天のはこの羊の上役さ」
「ヤギです!」と強めに抗議しているが空気を読みなさい。
「キミは何も知らずにこいつらを養っているのかい?少々驚きをかくせないよ」
持って回ったような言い方が鼻に付く。
こういう自分は何でも知っているという話し方をするヤツにロクなのは居ない。
「勝手に居着いているだけです。まぁ、土足で上がり込んで来る無礼者よりマシですけど」
もちろん、無礼者とはこのネコのことだ。
ネコはじっとこちらを見るとプッと噴き出した。
「なるほど。悪魔たちがキミを気に入る理由がわかったよ。それではおいとましよう。また、ゆっくりと」
ネコはそう言いながら玄関に向かい、颯爽と…ドアノブに向かって飛び跳ねている。
「開けてくれてもいいんじゃないかな?」
帰る時までムカつくんですけど。
「さすがです!これでウチの平穏が守られ…」
「誰のウチですか」
スリッパで羊の頭を殴る。
そんなことを気にする様子もなく朗らかに言葉を続ける。
「いやぁ、居候先にこの家を選んだのは正解でしょう。今後ともよろしくお願いします」
「そろそろさ、アンタら私にいろいろ説明しなさいよ」
「…もう少し、このままではいけませんか。時が来たらきちんと説明しますので」
普段の羊らしからぬ神妙な表情に思わず息を飲んだ。
「…もう少しってどれくらいよ」
「300年もすれば話せる時が…」
「長いわ」
再び羊にスリッパをお見舞いするのだった。
ウチには悪魔がいる。
時間の感覚がズレている悪魔が。




