悪魔がウチにおりまして・369
「紫の煙が目に染みる。
この時間が世間の雑踏からオレを切り離して……」
「戻ってこい、牛」
牛がリアルに紫の煙を起こしながらなんか喋っていた。
「なんですか、いい雰囲気でしたのに」
久方ぶりに来たバー「蜂の巣」
不運なガス爆発から復旧したらしいので来てみたら牛は相変わらずだ。
「ねぇ、ザリガニ。大変だったね」
心なしかげっそりとしたザリガニが仰々しく頷く。
「もう二度と経験したくないっす、あんな夫婦ケン……」
「3号さん、それはシャラップです」
牛がザリガニを止めてヒヅメを口元に持って行く。
なにか言っちゃいけないことを知っているんだろうな。
「ところで牛の姿のままでいいの?」
「それ、今さら言います?目の前見えますか?」
「乗ってるですかー!?」
目の前で顔を真っ赤にした悪魔がグラスをあおっている。
「ザリガニ、悪魔に何出したの?」
カウンターの中に尋ねるとザリガニは頭を掻く。
「イエーガーのボトル?」
よりにもよってそのレベルか。
イエーガー・マイスター。アルコール35度。
「なんでボトルで渡したの?」
呆れながら尋ねると、悪魔がふらつきながら近寄ってくる。
「ニンゲン、飲んでるですー?」
うわ、酒臭い。
「なんでアンタ、そんなに酔ってるのよ」
「酔ってないのですー。これくらいで酔うわけないじゃないですかー」
典型的な酔っぱらいムーブをするんじゃない。
しかし、この子こんなに酒弱かったっけ?
アルコール度数35度の時点で酔ってて然るべきなんだけど。
「たぶん、中に入ってるハーブが悪さしてるんでしょうね」
牛はボトルを眺めながら頷く。
「悪魔族ってハーブに弱いの?」
「特定のってわけじゃないのですが。組み合わせじゃないですか?」
「牛ー!飲めー!」
悪魔は牛の口にボトルをツッコみそのまま流し込む。
あー、そんなことしたら後が怖いよー?
「んー、関係なさそうです。コレで悪酔いする味じゃないっぴ」
ぴ!?ぴって言いやがりました!?
「牛、酔ってるですー?」
お前が言うな。
「酔うわけないっぴ。全く、ミミちんはあほですねぇ」
牛、マジで気持ち悪い酔い方する……。
「ザリガニ、私帰っていい?」
「オレも帰りたいっす」
私は帰路に着く。
イエーガー・マイスター、禁止にしとこ。




